第36話
こんなにも人で溢れているのに、その視線の先には、月だけ。
俺は首を傾げる。
それは、次の瞬間だった。
ふわりと、女が微笑んだのは。
「っっ、」
息を飲む。
愛おしげに目を細め、月を見上げる女に、俺はただ魅せられた。
この時には、もう、落ちていたんだ。
抗う術もなく、ただ、目の前で微笑む女に。
ーーー恋をした。
「……だか、悪くない。」
ゆるりと、口角が上がる。
理屈ではなかった。
人を愛する事は。
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