第55話 緊急離脱


 僕たちはダンジョン『ゴブリンの巣穴』の探索していた。その最中、ダンジョンのトラップが発動し、それと同時に、敵軍の大規模な攻勢を受ける。



 僕と心愛さんの後方から出現したゴブリンの弓部隊は、なんとか殲滅することが出来た。


 けれど、その間に、左右の通路から侵入した、敵の近接部隊の接近を許してしまう。




 ゴブリンの、近接部隊の編成は──

 盾装備の小柄なゴブリン五匹と、槍を装備した大柄なゴブリン三匹が、一つの部隊を形成している。


 合計八匹で編成された二つの近接部隊が、それぞれ、僕たちの左右から迫る。


 

 最悪の状況だ。



 このままでは、挟み撃ちにされる。

 それだけは、避けなければ……。


 僕は急いで、散弾を三発作った。



 ここで────

 先ほどまで消えていた松明が、再び一斉に点火された。


 洞窟内に、灯りが戻る。










「えっ? おおっ! 停電なおったー!! ────てっ、ええッッ!? ちょっ────! マジこれ、ヤバッ! ウチら、絶体絶命のピンチじゃん!!」



 照明が灯されたことで、周囲の状況を把握した心愛さんが、座ったまま、慌てふためいている。



 そして────


 僕達と少し離れ、この大部屋の中央にいた寺下さんは、四匹のゴブリンに囲まれていた。


 ゴブリンに襲われた彼は、悲鳴を上げて──

 その姿を、このゲーム世界から消した。







  ──────── ──── ── 

 


 僕は心愛さんを護ることと、自分の戦闘で手一杯だったが、照明が消えてからの寺下さんの戦況も、大雑把にだが把握していた。



 照明が消えた後……。



 寺下さんは大盾を地面に立てかけたまま、その陰に座り、怯えていた。


 大盾の向こう、僕たちの正面から、ゴブリンの弓兵部隊が出現する。




 弓兵部隊は寺下さんの大盾に向け、一斉に矢を射かける。


 矢は大盾で防がれて、寺下さんは無傷だった。



 だが、左右から現れた四匹のゴブリンに、周囲を囲まれてしまう。


 四匹のゴブリンの装備は、こん棒と短剣だ。



 大盾で防げる攻撃は、正面からの弓攻撃のみだ。



 後ろに回り込んだ二匹のゴブリンに、こん棒でボコられる寺下さん──



「いっ、いでぇぇっぇぇぇ!!!!!!!」


 痛みと恐怖で、絶叫する。





 ここで、松明に灯が灯り、洞窟に光が戻る。



 短剣を装備した二匹が、寺下さんに止めを刺そうと近寄り……。


「ひっ! ひぇっぇぇえええええッッッ!!!!!!」



 次の瞬間に、寺下さんの姿は消えていた。





 恐らく、あの人は──

 緊急離脱を使い、このゲーム世界から現実へと戻ったのだろう。


 彼が消えた後には、地面に設置されている大盾だけが残った。

 


 寺下さんの姿が消えた後、標的を見失ったゴブリンたちは、その周囲を丹念に捜索する……。


 ────ガァンン!!


「グギャァ!!」


 一匹のゴブリンが大盾を倒してしまい、その下敷きになった。


 三匹のゴブリンが、下敷きになった仲間を助けようとしている。



 八匹の弓兵部隊も合流し、協力して仲間を救助した。




 そんなこんなで、多少の時間は浪費したが……。

 十二匹のゴブリンは、洞窟内に新しい獲物を発見する。

 


 近接武器のゴブリン四匹と弓装備のゴブリン八匹は、僕と心愛さんを標的に定めて、戦闘準備を始めた。




 ──────── ──── ──


 



 洞窟に照明が戻る。


 僕と心愛さんは、左右からゴブリンに接近されて、挟み撃ちになっている所だ。


 僕は散弾を三発作り、左から押し寄せるゴブリンの群れに銃弾を浴びせた。




 ────ドウッ!! ────ドウッ!! ────ドウッ!!


 範囲攻撃で、ゴブリンの足を止める。


 動きを止めることは出来たが、仕留めることは出来なかった。


 


 盾装備のゴブリンは、鎧も着ていて防御力が高い。 


 散弾の弾は、敵の防具を貫通出来ない……。



 それでも打撃ダメージは入るし、運よく防具をすり抜けた弾は、敵の身体を抉っている。


 前衛の盾部隊に守られてはいるが、後衛の三匹にも被害はある。



 ダメージにムラはあるが、敵全体に損耗を強いることは出来ている。


 一気に、片付けよう。



 左右から一度に攻撃されれば、どうしようも、なくなってしまう。








 ────僕は『スロウ』を使った。


 時を止めて、散弾を九発作る。


 それらを全て、左のゴブリン部隊に向けて放った。



 スロウを解除────





 ≪ドウッッッ!!!!≫


 洞窟の広間に轟音が響き、標的の八匹の身体をズタボロにする。



 スロウを使いながら、九発の散弾を発射────

 魔力消費は大きいが、節約をしている余裕はなかった。








 僕は左側の部隊を殲滅し、背後を振り返る。


 右側から押し寄せてきたゴブリンの槍が、心愛さんに迫っていた。


 ────ビュオッ!!



 鋭く重い、槍の一閃────


 その攻撃が心愛さんに届く前に、間に入った僕が、受け止めた。


 

 ────ガキィィイインン!!!!!!




 間一髪だった。


 ゴブリンの攻撃がくるよりも、僕の身のこなしの方が早かった。


 心愛さんを狙ったゴブリンの攻撃は、盾で防げた……。


 しかし────




 

 ────ガァンッ!! ────ズブッ!!



「ぐっ────!!」 


 

 僕の脇腹と足に、痛みが走る。



 脇腹は、槍で突かれた。

 

 足は盾装備の小型のゴブリンに、ナイフで斬られている。



 槍の穂先は、鎧が防いでいる。

 ────けれど、打撃ダメージが、かなりある。

 

 そして、敵のナイフ攻撃は……。

 防具の隙間を縫って、足の肉を切り裂いていた。





「っ……!!」


 

 激痛が、身体を走る。


 けれど────

 痛みに構っている暇はない。



 僕は敵の攻撃を受けながら、右拳をブラックアーマーで覆う。


 そして、ナイフで僕を攻撃したゴブリンへと、拳を突き出す。


 スロウで時を止めて、『渾身の一撃』を放った。




 ────ドゴォォオオオン!!!!!!!


 盾でパンチを防ごうとしていたゴブリンを、吹っ飛ばす。



 まずは、一匹────






 僕は空いている左手で、弾丸を作る。

 

 狙いは────

 槍装備の三匹だ。



 ────ドウッ!! ────ドウッ!! ────ドウッ!!


 ダークショットの銃弾で、頭を撃ち抜かれたゴブリンは、即死だった。


 力尽きて、地面に倒れる。




「まだ、まだ……」


 さらに追加で、三発の銃弾を作る。




 ────ドウッ!! ────ドウッ!! ────ドウッ!!


 盾を装備したゴブリンの、頭を狙い、銃弾を撃ち込む。


 

 盾装備は、これで後、一匹……。


 そいつが短剣を構えて、突進して来た。



 ────ズキッ!!


「……ぐっ」



 マズい……。

 足の痛みが、無視できないレベルになっている。


 槍で突かれた、脇腹も痛む……。 



 僕は痛みを抱えて、敵を迎え撃つために対峙する。




 その時────


「ヒール!!」


 心愛さんの魔法が、僕の身体を包んだ。


 ────傷が塞がり、痛みが引いていく。




 敵の短剣が迫る。


 その攻撃を盾で防ぎ、左手で弾丸を作る。



 盾の下から、無防備なゴブリンに、銃弾を撃ち込む。


 ────ドウッ!!




「……ふぅ」


 近づいてくれたおかげで、あっさり倒せた。


 ヒールによる回復は、こいつの想定外だったか……。



 まあ、いい────


 これで、残りの敵は十二匹……。





 

 僕は後ろを振り向く────


 弓を装備した八匹のゴブリンから、矢が放たれた。

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