第52話 間違った選択


 僕は冒険者ギルドの飲食スペースで、パーティを組む予定の二人と、自己紹介を開始する。

 


「それでは、えっと────お二人の職業を、聞かせて貰っても良いですか?」


「うん、いいよー。私は『ヒーラー』っていうの? 回復魔法を使えまーす」

 


 これから一緒にダンジョン攻略をするのなら、まずは、お互いの能力を把握しておくべきだ。



 この集まりでは、僕のレベルが高い一番高い……と思う。



 『リーダー』と言うのは性に合わないが、僕が取り仕切るのが自然だよな?


 そう思い、聞いてみると、心愛さんの職業は『ヒーラー』だった。



 回復職か──仲間にいると、心強いな。





「俺は『盾使い』だ。────役割はタンクになる」


 寺下さんは盾使いらしい。


 前衛で敵を引き付けてくれたら、戦いが楽になるだろう。



 ヒーラーに、タンクか……。



 この二人は『攻略組』ではなく、『ログインボーナス勢』だと聞いている。

 

 『戦力』としては、あまり期待していなかった。


 けれど、なかなか良い人材だな、と思った。





「んで、お前はどーなんだよ? 何が出来るんだ? 中坊ー」


 寺下さんから、逆に質問される。




 この人、僕が言うのもなんだが────


 『陰キャが無理してイキってる』って感じの人で、なんか痛々しい……。



「あっ、はい……えっと、僕はですね、魔法使いです。────攻撃魔法が使えるので、火力は任せて下さい」


 正確には『魔法』ではなく、『特技』なのだが、その辺りの説明は面倒なので省いた。



 肝心なことは、僕が『威力の高い、遠距離攻撃手段を有している』と、相手に伝える事なので、これで良いだろう。



「ふーん、魔法、ね。────つまり、お前は、チート能力を運よく引き当てたから、無双出来てるだけだよな? ────要するに、凄いのは『お前』じゃなくて、お前が使う『魔法』の方だろ? 勘違いしてんじゃねーぞ。ガキが……」




 ……。


 そう言われると、そんな気がしてくる。


 寺下さんの指摘に対して、特に異論はない。



 ただ、それを────

 わざわざ、ここで指摘する意味は、よく分からない。


 パーティが険悪になるだけ、だと思うのだが……?



「オイ……寺下、お前────、なに? ジローちゃんの事、苛めてんの?」


 案の定、心愛さんが怒りだす。



「えっ? あっ、いや……俺はその、そんなつもりじゃなくて、そのガキが、その……」


 心愛さんに睨まれた寺下さんは、小声で、しどろもどろな言い訳をする。




 

「えっと、そのっ! とにかく────この三人でパーティを組んで、ダンジョン攻略を目指す……。と、いうことで良いですか?」


 

「ジローちゃんが、それで良いなら良いよ?」


「ふ、ふん、まあ、金を稼ぐ為だからな……」



 ────なんとか、まとめることが出来た。


 この後、受付で手続きをして、三人でパーティを結成した。



 ダンジョン攻略の実績のある僕が、今回の冒険のリーダーを務めることになる。



 



「じゃあ、まずは情報屋で話を聞いて、それから準備を整えて、ダンジョンに行きましょう」


「へぇー、情報屋なんてあるんだ」



 僕が先導して、冒険者ギルドの二階に移動する。



 ノックをしてから、部屋に入った。


 部屋の中にいた情報屋は、大柄のスキンヘッドの男だった。



 この村の情報屋も、美人のお姉さんでは無かった。


 ────僕は若干ガッカリしつつ、交渉を開始する。











「えっと、まずは……料金に関してですが、……情報を提供する前に、その都度、提示して下さい。────良いですか?」


「ああ、わかった」


 先ずは基本を押さえて、質問に入る。



「『ゴブリンの巣穴』の事を教えて下さい。────出入りに、制限はありますか?」


「金貨1枚になる」


 ……ということは、制限は無さそうだな。


 でも一応、ちゃんと聞いておくか。




「教えて下さい」


「出入りに制限は無い」


 予想通り、出入りは自由のようだ。



「では、ボスの出現条件は────?」


「そいつは、金貨3枚だ」



 あまり凝った条件では、無いのかな……?


「────教えて下さい」


「ボスが現れるエリアは、固定されている。……ボス部屋に冒険者が入ると、出現するようだ。──その場所から、ボスは移動しない」



 出現場所が、決まっているのか……。


 初めてのケースだ。


 

 ボス部屋が決まっているということは、その部屋を見つける難易度が高いのだろうか……?



「えっと、迷宮を攻略するうえで、一番おすすめの情報は何ですか────?」


「金貨1枚になるが────?」


 聞いておこう。


「お願いします」


「ゴブリンの巣穴の『地図』の購入を進める。地図は金貨50枚だ。────一番は地図だが、それ以外にも、聞いておいた方が良い情報もあるぞ」



 地図が金貨50枚……。


 高いが、地図にはその価値があるのだろう。


 ……となると、今回のダンジョンは、複雑な構造なのだろうか────?



 地図を購入したいが、手持ちの資金が足りない……。


 それ以外の『聞いておいた方が良い情報』というのも気になるな。



 ……まずは、資金を集めるか。




 僕が金策を考えていると────


「おいおい、さっきからよー、お前、なに無駄使いしてんの? どうでも良いような情報に、金貨5枚も払って……、そんなことに金使うより、こっちの装備に金を使えよ────てか、地図に金貨50枚ってなんだよ? そんなもん、自分たちで作ればいいだろ? ちっとは頭使えよ。中坊~~」



 寺下さんに、横やりを入れられた。


 そう言われると、そんな気もしてくる。




 ────どのみち今は、地図を購入する資金が無い。


 自分たちで地図を作成するというのも、良いかもしれないな……。



 僕は金貨5枚を支払い、情報屋を後にした。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 頑なに意見を曲げずに、一つの考えに固執するのは考え物だ。


 それでは、頑迷となり、思考の硬直化を招いてしまう危険がある。



 様々な意見を聞き、自分とは違う考えを取り入れるのは大切な事だろう。


 『話し合い』は素晴らしい。

 



 僕は初めてプレイヤーとパーティを組み、自分とは異なる考えを聞き、その意見を取り入れた。


 それは、素晴らしいことだ。



 だけど、後から振り返れば、だが────


 この時の僕は、判断を誤ってしまっていた。






 『皆で話し合って決めたことは、絶対に正しい』


 ────そんな訳ないのだ。

 


 誰だって失敗するし、正しい選択ばかり出来る人間なんていない。



 だから、人と話して決めたことでも、間違えることはある。




 肝心なのは、間違いに気付いた後だ。


 そこから立て直す力が、冒険者に求められるものだろう。



 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv39 魔法使いLv36                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP       140/140

 最大MP       670/670


 膂力         51

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         76

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       




 装備

 旅人の服 戦士のブーツ 戦士のマント 戦士の鎧 戦士の兜 戦士の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス 戦士の短剣



 スキル

 魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出


 魔法

 なし


 特技

 ダークショット スロウ ワープ 回復力上昇 ダークキャノン 渾身の一撃 ブラックアーマー


 所持金

 金貨26枚 


 ボーナスポイント

        2  


 *************************

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