第46話 嫌な予感
森の中から、僕の顔を狙った矢が飛んできた。
危機を察知した僕は、咄嗟に『スロウ』を使用する。
……弓矢は僕の顔の、すぐそばで止まっていた。
「……ふぅ」
危なかった。
あと一秒────
スロウの使用が遅ければ、僕は顔にかなりの手傷を負っていたところだった。
『スロウ』を使用したことで、何とか問題を先送り出来た。
────だが、危険を回避できたわけではない。
僕はマツダに向かって、弓で攻撃している最中だ。
弓に矢を番え、弦を引いた状態でいる。
この状態から飛んでくる弓矢を、盾で防ぐのは至難の業……。
いや、不可能だ。
う~ん。
どうしよう……?
このまま『スロウ』を使用しながら、身を屈めようか────?
それとも、身体を後ろへと逸らす……。
攻撃を避けることは可能だろうが、それをすると今度は、『盛大にバランスを崩してしまう』という問題が発生する。
一撃目の矢を避けても、二撃目は避けられない。
身体への負荷も大きい。
出来れば、最小限の負担で攻撃を避けたい……。
あれこれ考えている間にも、弓矢はゆっくりとだが、僕に迫って来ている。
なにか────
盾に出来るようなものが、あれば…………。
そうだ!!
僕は飛んでくる矢と顔の間に、魔法で障害物を作ることにした。
小さくても、いい────
ブラックアーマーを作る要領で、硬質の、石のような塊を具現化させよう。
『魔導士の指輪』の近くでなくとも、時間をかければ魔力の物質化は出来る。
魔力消費は大きいが、そこは目を瞑るしかない。
ズォォオオ…………。
僕の顔と迫りくる弓矢の間に、黒い塊が現れる。
『スロウ』を解除────
キィィンンンン!!!!!!
僕の作った黒塊と弓矢の矢尻が衝突し、甲高い音を響かせる。
────狙い通りだ。
ひとまず、危機を脱することは出来た。
だが、まだ安心はできない。
初撃は防いだが、続けて矢が飛んでくる。
僕は弓を捨てて、右腕に装備した盾で矢を弾く。
不意打ちの一撃は対処に困ったが、来ると分かっている攻撃を凌ぐのは、比較的容易い。
────随分と、戦い慣れてきたものだ。
暫く盾で矢を防いでいると、弓矢による攻撃が止んだ。
……どうしたんだろう?
矢を使い切ったか……。
それとも────
僕に防がれることが分かったので、無駄打ちを止めたか……。
いずれにせよ、まだ油断はできない。
僕はマツダとマツイの様子を、横目で見る。
二人とも、満足に動ける状態ではない……。
────遠くへ、逃げる心配はない。
それを確かめてから、僕は森の中へと移動することにした。
先程の攻撃は、ゴブリンのものではない。
────人の意志を感じた。
僕に対して、手負いのマツダがやたらと強気だったのは、森の中にまだ、仲間がいたことも大きな要因だろう。
そいつを何とかしなければ……。
僕は、森に入った。
森の中に潜む敵は、姿を現さない────
「攻撃して、こないか……」
意外と慎重だな。
このまま、森の中を探し回るか……?
それとも……。
少し危険だが、誘い出すか────
僕は盾を下げて、無防備な体勢になる。
そして、敵に語りかけた。
「────無駄な争いは止めましょう。……あなたの弓矢が切れたのは、分っています。……大人しく降参してくれれば、危害は加えません」
僕はそう呼びかけながら、散弾を三発作った。
────さて、どう出る?
森を歩きながら、耳を澄ます。
……。
森の中は障害物が多い。
物音を完全に消すことは、まず不可能……。
敵が遠くへと、逃げる気配はない。
この辺りから、離れていないはずだ。
────ガサッ!!
茂みが揺れる音がした。
僕はその場所に、ダークショットを放つ。
ドウッ────!!
僕のダークショットは、誰もいない茂みを撃ち抜いた。
その直後────
木の陰から、人影が現れる。
そいつは、僕から五メートルほど離れた場所にいた。
こちらに向かって、弓矢を構えている。
ニヤついた笑みを浮かべながら『────馬鹿がッ!』と言って、矢を放った。
僕は『スロウ』を使い、矢の軌道を確かめる。
これなら、盾で防げるな。
僕は敵の不意打ちに慌てることなく、右腕に装備した盾で矢を防いだ。
「なにっ!!」
矢をあっさり防がれて、勝ち誇っていた、そいつの笑みが凍り付く────
恐らくは……。
こいつが『マルヤマ』だろう。
僕はマルヤマの左手を向け、二発目のダークショットを放った。
狙いは、敵の左腕────
────ドウッ!!!
「イギャッァァァァァァアアアあああ!!!!!!!!」
僕の放ったダークショットは、その男の腕を撃ち抜いた。
マルヤマは散弾を食らい、腕がズタボロになっている。
もう弓は、使えないだろう。
────弾は、二発で十分だったな。
僕は襲撃者の無力化に成功した。
夜明けから、三十分は経過しているはずだ。
だが森の中は、まだ薄暗い……。
視界の悪い、森の中────
僕はそいつに、ゆっくりと近づいて行く。
男は腕を押さえ、蹲っていた。
「……顔を、上げて貰えますか?」
「わかった、降参する。もう止めてくれ……」
僕の要請に、素直に応じてくれた。
男は苦痛に歪んだ顔で、僕を見る。
……なにか、嫌な予感がした。
ここで、気を緩めてはいけない。
僕は男の顔を、改めて確認した。
ワールドニュースで見た顔だ。
殺人犯の『マルヤマ』で間違いない。
マルヤマの足元には、縄が落ちている。
それは、僕が撃ち抜いた茂みの方角に伸びていた。
どうやら、コイツはこれで、茂みを揺らしていたみたいだ。
「────馬鹿めッ!!」
僕が縄の先の茂みを確認した隙を突いて、男が猛然と立ち上がる。
そして、右手に握ったナイフで、僕に襲い掛かってきた。
まだ、そんな余力があったのか────
僕は用意していたダークショット放った。
狙いは、ナイフを持ったマルヤマの右腕……。
────ドウッ!!!
「ぶぎゃぁぁっ!!! ああぁぁっぁぁっぁぁ!!!!!!!!!」
魔法で創った弾は、時間経過で消えてしまう。
弾が消えてしまう前に、有効活用することが出来た。
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