第45話 デッド オア アライブ



 大盾を構えたマツイと、槍を構えたマツダが僕に迫る。


 大の大人が、武器を持って迫ってくる。


 しかも、二人がかりで、だ。



 ────少し前にやっつけた、あの、おばさんよりも、脅威度は遥かに大きい。


 怖いのは、怖い……。

 

 だが、僕の心は落ち着いていた。




 装備していた弓を捨て、『渾身の一撃』を繰り出す為に、右手を握り締める。


 そして、魔導士の指輪を装備している左手を、握りしめた拳に添えた。


 腰を少し落として、態勢を整える。



 大盾を構えた敵が、目の前に迫っている。







 僕は右拳を、ブラックアーマーでコーティングする。


 それから、マツイの掲げた盾に向け、拳を突き出す。 



 拳が盾に接触する少し前に、『スロウ』を使用────


 世界を停止させる。







 ゆっくりと時間が進む、刹那の時の中で────


 僕は力を込めて、拳を前へと押し出す。

 

 拳はゆっくりとだが、確実に前へと進んでいく。



 標的は、マツイの構えた大盾だ。


 そのど真ん中をぶん殴る為、全身に力を込めて身体を動かす。


 

 僕の拳が、敵の構えた大盾と接触する。


 そのまま、さらに力を加えて……。



 『スロウ』を解除────



 ドゴォォォオォオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!



 轟音が辺りに響き、マツイが宙を舞い、吹き飛んだ。



 その後ろにいたマツダも巻き込み、二人は地面に倒れ込む。


 ────ドサッ!!




 僕が本気で放った渾身の一撃は────

 重量のある大盾と、成人男性二人を吹き飛ばす威力があった。 







 この技は、これまでに三度、試し打ちで使っている。

 

 コツは、掴んでいた。



 それに今回は、敵が頑丈な盾を構えていた。


 『大盾を構えているし、死にはしないだろう』


 そう思い────


 僕は遠慮なく、手加減抜きで、渾身の一撃を叩き込むことが出来た。




 マツイの装備していた大盾は、くの字に折れ曲がっている。



 ────こっちの身体も、無事ではない。


 ブラックアーマーでコーティングしていたとはいえ、反動でかなりのダメージが入っている。





 攻撃を受けたマツイは、倒れたまま動かない。


 盾を構えていたとはいえ、渾身の一撃の衝撃はマツイの身体を貫いている。


 ────車に衝突されたようなものだ。


 盾を構えていようと、無事で済むわけがない。




 マツダの方は、意識があるようだ。


 倒れたまま、『い、いてぇ~』と言って唸っている。








 マツダの装備していた槍が、地面に落ちている。


 僕はそれを拾い上げて、槍でマツダの腕を狙って攻撃した。




「えいっ!」


 ────ズシュ!!


「ギャッ!! い、痛えよ、この馬鹿!! もう降参だ! 降参!! 戦いは終わりだ。……えっ? うわっ! 止めろ!! ────ギャッ!!」




 僕はマツダの言葉を無視して、その胴体にもう一度槍を入れた。



 相手は二人で、僕は一人だ。


 敵が負傷しているとはいえ、油断はできない。



 死なない程度にダメージを与えて、反撃されないようにしておきたかった。



「や、ヤメロって言ってんだろ!! てめぇ~~、よくも、やりやがったな!! お前の顔は覚えたからな。────後でどうなるか、わかってんだろーな! オイッ! お前ッ!!!」


 マツダは元気に、僕を脅してきた。

 

「それっ!!」


 僕はマツダの足を狙って、槍を繰り出す。


「んぎゃ~~~、い、いってぇ~~~~!!!!」



 マツダの絶叫が、辺りに響いた。








 さて、これからこの二人を、どうしようか……?


 ────考えていなかった。


 まあ、捕まえて……。

 この先にあるドルス村に引き渡す、というのが無難だろう。



 僕は槍を構えて、二人に語り掛ける。


「えっと、あの~~。マツイさんにマツダさん……。────あなたたちは、殺人犯ですよね? ワールドニュースで見ました」


「だから何だっ!! 殺すぞ、クソガキ!!!」


 マツダさんは、元気に挑発してくる。


 僕の脅しには、屈してくれない……。




「その、ですね……、お二人には懸賞金がかかっていて、『デッド・オア・アライブ』の……」


「なんだ、それは……でっど、なに? 知らねーよ、そんなもん!!」


 知らないのか……。



「生死を問わずに捕まえろ。────という手配書が出てるんですよ。……ということは、お二人を殺しても、僕にはペナルティが発生しないということなんです」



「何言ってんの、お前? わっかんね。もっと、わかりやすく言えや!!」



 分からないのか……。



「えっとですね────だから、僕はここで、あなた方を殺しても良いし、村に連れて行って、そこで行政機関に引き渡してもいいんです。……好きな方を選んでください。────あの、言ってること、解かります?」 


 ここで死ぬか、村まで連行されるか……。

 

 ────好きな方を、選んでくれ。


 僕は彼らに、そう問いかけている。






 どっちでもいいとは言いつつも、出来れば、人殺しはしたくない。


 かといって、大の大人の男二人を、連行するのも骨が折れる。



 二人を縛る為の、縄もない……。 



 出来れば、協力して欲しい。


 自分で歩いて、村まで行ってくれないかな。 


 ────そんな風に考えていた。






 敵が手傷を負ったこの状況で、僕は油断していた。


 油断するつもりは無かったが、相手を甘く見ていたと思う。



 と、いうよりは────

 僕が非情になり切れないのを、敵に見透かされていたのだろう。





「舐めるなよ、クソガキ!!」


 僕の付きつけていた槍を、マツダが掴む。

 

 ぐっ、ぐぐっ────!!



 それを強引に、奪い返そうとしてきた。



 ……。


 力では、押し負けるか……。



 相手の方が強い────


 瞬時にそう判断した僕は、槍を手放して後ろに下がる。






「……ふぅ」


 それにしても────


 この状況で、まだ抵抗するとは……。




 僕はマツダの強情さに辟易しながら、地面に落ちている弓を拾う。


 慎重に距離を取り、狙いをマツダに合わせる。



 マツイの方を、ちらりと見る。

 そっちはまだ、腕を押さえて転がっていた。

 

 こいつには、もう戦意は無い……。



 

 なんとか、マツダの心を折ろう。

 

 僕は弓矢をマツダに向けて放つ。




 ヒュッ────



 グサッ!!



「ギッ!! いてぇ~~~!!!」


 マツダは座ったまま、避けることが出来ずに矢を受ける。


 彼には、槍で矢を防ぐだけの技量は無い。



「あの、いい加減、降参してくれませんか?」


「だ、黙れっ!! 殺すなら、殺せ!! やってみろよ、おら!! どうした? ビビッてんのか、コラッ!!!!」


 

 ……えぇ。


 スズヨウさんみたいなことを、言い出したぞ。


 僕は対処に困る。



 取り敢えず、矢が尽きるまで撃ち続けてみるか……。


 僕は弓を引き、矢を放とうと────





 ────ヒュッ!!!


「……えっ?」



 その時────


 森の中から、矢が飛んできた。


 矢は僕の顔を目掛けて、風を切り突き進んでくる。

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