第23話 予期せぬ訪問者
僕は現実世界で、目を覚ます。
今日は日曜日、昨日に続き休日で学校は休みだ。
今日もまた、本を読んで過ごすか……。
まだ見ていないアニメを、視聴するのもいいだろう。
無料期間が終わる前に、見ておかないと……。
僕が休日の予定を立てていると、冷泉から連絡が来た。
内容は────
『今日、田中の家に行ってもいい?』
という、ものだった。
僕は何も考えずに、了承した。
了承してから、不安になった。
不安要素、────
僕の手持ちの服は、ダサい。
『格好悪い』というほどではないが、オシャレとかに興味がないから、地味で無難な服しかない……。
まあ、『ダサい』とまでは、思われないかもしれないが……。
『カッコイイ』とは、思って貰えないだろう。
どんな格好で会えばいいのか、悩む。
休日だし、自宅で会うのだから部屋着でいいか────?
さんざん悩んで、そう決めた。
僕は陰キャだしな……。
面白みのない地味な奴、と思われるくらいで丁度いいだろう。
彼女が僕に求めているのは、ゲームの腕前だ。
ファッションセンスではない。
────ピンポーン!!
チャイムが鳴った。
冷泉が来たようだ。
────僕は玄関に向かう。
玄関へと移動しながら、僕はまた、不安に駆られる。
冷泉一人、だろうか────?
複数の友達と一緒とかだったら……。
その中に、男友達がいたら……。
────最悪だ。
僕は複数人を相手にするのが苦手なのだ。
……。
結果的に、僕の心配は杞憂だった。
ゲームの事は、プレイヤー以外には秘密だ。
その話をするのに、友達を引き連れてくるわけはない。
玄関には、冷泉一人がいる。
彼女は私服もオシャレで、学校の外でも完璧な美少女だった。
僕とは大違いだ。
……比較しても仕方ないので、僕は心を無にして彼女を家に上げた。
「────今日、ご両親は?」
「今日は僕一人、母は昼まで仕事……離婚してるから、父親はいない」
僕はなんとはなしに、家庭の事情を彼女に話す。
すると────
「そうなんだ、実は、家も片親なんだ。────うちの場合は、お母さんが事故で死んじゃって、お父さんと二人暮らし……」
冷泉も、自分の家庭事情を話してくれた。
僕は、ソファに座る。
「好きなとこ座って────」
と言うと、冷泉が隣に腰かけてきた。
……なんで?
他にも椅子はあるのだが……。
向こうに座れとも言えないので、このまま話をしよう。
僕たちは話し始めるが、なんとなく落ち着かない。
冷泉は僕よりも背が高いので、あまり横に並びたくは無いし、間近に彼女の顔があるとドキドキして喋りにくい…………。
そう思っていると、冷泉が突然、僕の頭を撫でだした。
「田中って、よく見ると可愛いね。────なんか、弟が出来たみたい」
にへへ、と笑いながら、頭を撫でまわす。
────は?
いや、可愛い??
……くっ、弟か────
微妙な評価だ。
僕は可愛いと言われるよりも、カッコいいと言われたい年頃だ。
まあ、少なくとも嫌われてはいないし、距離は近い……。
────悪くは無い。
悪くは無いのだが、それにしても……。
何故だかちょっと、もやもやする。
……。
冷泉は男友達と、こんな風に接するのか────?
そう思うと、何故だか心がざわついた。
彼女は男女を問わず、クラスの人気者だ。
男友達も多い。
……ちょっと、振り返ってみよう。
クラスでの様子を思い返すと、男とこんな風に接するところは見たことがない。
もっとちゃんと、適切な距離感を保っている。
こんなに男と接近するのは、多分、僕だけだろう。
そう思うと、ちょっと安堵する。
そして、疑問に思う。
なんで、僕に対してこんな……?
…………。
そういえば、冒険者ギルドの情報屋のお姉さんも、僕に対してこんな感じだったような……。
つまり、ステ振りで魅力を100上げたから……。
その、効果なのか?
これは────
それ以外に、考えられるのは……。
彼女の望みに応え迷宮をクリアしたことで、冷泉の好感度が上がった。
とか……?
その辺りは、まだよく分からない。
確かめようも、確認のしようもない。
分からないまま、僕たちは話を続ける。
「────兄弟は、いないの?」
次郎という名前なので、兄弟がいると思われていたみたいだ。
聞かれたので、『兄がいたらしいけれど、小さい時に死んだ』と答えた。
僕が生まれる前の話なので、兄弟がいたという実感はない。
母が父と離婚したのは、僕が小学校六年の時で、中学に上がる前のことだ。
そのタイミングで、母の実家のあるこの町に越してきた。
実家の祖父と祖母は、四年前に揃って事故で死んでしまっていて、空き家だったこの家を売ろうとしていた矢先に、離婚が決まり、ここに越してきたのだ。
僕と冷泉は、家庭環境が似ていたこともあり、かなり込み入ったことまで、お互いに話し合った。
────僕は元々引っ込み思案な性格だ。
中学から知り合いの一人もいない学校に通い、二年生になった今でも、友達を作れずにいる。
クラスメイトとまともに喋ったのは、冷泉が初めてだった。
その彼女との距離が、また少し縮まった。
ちょっとだけ、嬉しかった。
冷泉はゲームの中では、領主の娘なのだそうだ。
他の『勇者候補』プレイヤーとは、境遇が違うらしい。
そして冷泉は、三つの初級ダンジョンを最初にクリアしたプレイヤーの、仲間にならなければいけないらしい。
だから、ゲームの得意そうなクラスメイトに、助けて欲しいと声をかけた。
一番最初に条件を満たして、自分を迎えに来て欲しかったのだそうだ。
────あの世界で、見知らぬプレイヤーと強制的にパーティを組まされるとか、確かに嫌だよな。
……。
…………。
彼女の頼みあれば、叶えてあげたい。
僕は、そう思った。
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