第13話 情報屋


 前回ゲーム世界にログインしてから、二日が経過した。

 一日多めに休みを入れたのは、MPを回復させるためだ。



 ログインしなければ、ゲーム内での『プレイヤーの時間』は一日しか進まない。


 僕がスズヨウさんを雇用できるのは、あと二日になった。


 

 一日休んだ分、攻略が遅れた。

 だが、魔力を回復させてから挑んだ方が良いと判断した。


 このゲームは、連続でプレイし続けるとやたらと疲れる。


 やり込み過ぎると、体を壊してしまうかもしれない。

 ────注意しよう。




 

 僕はゲーム世界『ラスト・パラダイス』に、ログインした。


 ブイロ村の宿屋で目覚めた僕は、真っ先に冒険者ギルドへと向かう。



 ギルドの中をちゃんと見たことが無かったので、改めて見渡してみる。


 一階は酒場兼食堂になっていて、それ以外には受付と掲示板があるだけだ。



 僕は受付で情報を買いたいと伝えると、情報屋は二階だと教えられた。

 


 受付の人に、奥へ進むよう促される。


 受付の奥に、二階への階段がある。

 ────僕は二階へと進んだ。








「ふぅ……」


 二階に上がった僕は、軽くため息を漏らす。


 これから知らない人に合うかと思うと、気が重くなった。

 情報屋というのは、きっとスズヨウさんのような人だろう。


 それとも、初日に遭遇したような、乱暴で大柄な男だろうか……?



 …………。

 

 どちらも、僕とは相性が悪い──

 行きたくないなぁ……。



 でも、行かない訳にもいくまい。


 このゲームは、初見殺しが多いように思う。


 今日から僕は、『スライムの森』にチャレンジする。

 ちゃんと知識を仕入れてから、攻略に挑むべきだ。 

 

 





 僕は二階へと上がり、教えられた部屋に入る。



「いらっしゃい、あら! 可愛らしいお客さんね。────ひょっとして、勇者様かしら……?」


 部屋の中にいたのは、僕の予想に反して妖艶な美女だった。 

 しかも、フレンドリーな対応をしてくれている。




 僕は年上の美人さんに、ドギマギしながらも挨拶を返す。


「あっ、はい。……えっと、僕は勇者候補です。────それで、スライムの森の情報が知りたくて、ここに来ました」


 自分で自分の事を『勇者』と自称するのはどうかと思うが、ここはゲーム世界で、そういう設定なのだ。


 照れていても始まらない。


 ────役になり切って、話を進めよう。





「やっぱり! じゃあまずは、座って下さる? それから、お話ししましょうか? ────お茶を入れるわ」


 そう言ってお姉さんは立ち上がり、部屋の奥へと入っていく。


 

 お姉さんがお茶を用意して、部屋に戻る。 


 僕が情報屋のお姉さんの対面に座ろうとすると、お姉さんが手招きして、自分の隣に座るように促した。



 僕の分のお茶が、お姉さんの隣の席に置かれている。


 ────それだと、話辛くないかな?

 そう思いながらも、僕は指定された席に着席する。



 せっかく入れて貰ったんだから──

 そう思い、まずはお茶を一口飲む。


 柑橘系の香りがする。

 ゲーム世界だが、ちゃんと匂いもあるし、温度も感じるし、味もする。


 このゲームの中は、本当にリアルと変わらない。 






「それで……スライムの森の、何が聞きたいのかしら────?」

 

 お姉さんは、隣に座る僕の足に手を置いて、肩を寄せる。

 僕とお姉さんの、身体が接触する。



 …………。


 ゲームキャラとはいえ、女の人と接触してしまった。

 顔が赤くなり、ドギドキする。


「あら、可愛い、初心なのね。勇者様は────」


 お姉さんが揶揄うように、『くすっ』と笑う。





 ……。


 何なんだ、これは……?


 何故僕が、女性からこんなにモテているんだ?



 ……。


 ────ひょっとして、これが魅力を100アップさせた効果なのか?




 ……そうかもしれない。


 僕の魅力が100アップしても、男にとってはどうでもいいことだろう。




 ────だが、女の人から見たら……。


 僕は女性から見て、かなり、魅力的に見えるようになったんだ。


 情報屋のお姉さんのこの過剰な密着は、それ以外には説明が付かない……。 








 …………。


 いや、別に……。

 女子からモテたいとか、僕はそういうつもりで魅力を上げたんじゃなくて────


 僕は誰に対してなのか分らない、言い訳を心の中で始めた。




 いや、いや……。


 今は、それはどうでもいい。

 ちゃんと情報収集しなくちゃ────


 僕は気を取り直して、聞きたいことを聞く。


「あの、スライムの森には、『一度入ると出られない』という情報は知っています。────ボスを倒すまでは出れないそうですね。では、────ボスは森のどの辺りにいますか? ボスと戦えるレベルの目安は? スライムの森に、ブルー、イエロー、グリーン、それとボス以外に敵はいますか? ────後は、ボスと戦う上で、有益な情報があれば教えてください」



「────あら、随分と沢山聞きたいのね。……私、全部覚えることが出来たかしら────? まあ、いいわ。知っていることは、教えてあげる」


 お姉さんはそう言うと、僕の肩に手をまわし、自分の方へと引き寄せる。

 


 ────ぽよん!!


 僕の顔が、お姉さんの柔らかな部位と接触する。


 駄目だ。

 集中して聞くんだ。


 僕は雑念を振り払い、お姉さんの話に耳を傾ける。

 


「まずは、スライムの種類ね。ブルーイエローグリーン意外だと、グレースライムがいるわ。────スライムの森にしか出てこない、防御力特化型の魔物よ。────それと、ボスの出現場所は、決まっていないの。……ブルー、イエロー、グリーン、レッド、グレー、それぞれのスライムを『森の中で』二十体ずつ倒せば、ボスが姿を現すと言われているわ。────ボスを倒せるレベルは、解らないわね。人によるけれど、ボススライムは、ブルースライムの十倍強いそうよ」



 かなり沢山の、それも、有益な情報が聞けた。

 僕はお姉さんに抱き寄せられて、ふくよかな谷間に顔を埋没させながらも、ちゃんと聞いている。



「────情報は、これで良いかしら?」


「はい、はい……」




「じゃあ、お会計ね。情報料は全部で金貨五十枚よ」




 …………えっ?



 ……しまった。


 最初にちゃんと、料金を確認しておくべきだった。


 僕の顔色が、赤から青に変わる。


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