第12話 レベリング



「────お、おい小僧! ここから先はマジでヤベーんだ。……これは脅しや、はったりじゃねー。パーティメンバーが一人でもこの森に入ったら、全員が取り込まれちまうんだ。────つまり、俺が入ったら、強制的にお前も入ることになる。……悪いことは言わねーから、引き返せ!!」



 ここはスライムの森の手前、その入り口だ。


 僕が森へ入るように促すと、スズヨウさんが思い留るように説得してきた。




 このスライムの森は、『ダンジョン』だ。

 この迷宮にパーティメンバーが一人でも入ると、他のメンバーも強制的に入ることになるらしい。


 ────僕は只で、情報を手に入れることが出来た。



 

「その森に入ることが、そんなに危険なんですか? ────僕も無理する気はありません。一度入って、無理そうならすぐに出ようと考えています。……取り敢えず、様子見で入りたいんですよ」


 

 僕は手を銃の形にして彼に向け、先へと進む様に促した。


 迷宮が危険なのは百も承知だが、入らなければ攻略できない。



 どの程度の敵が出るのか、どういう場所なのか──

 それらを確認してから、村に戻って対策を立てようと思っている。

 

 知らなければ、対策の立てようがない。




「くっ……、仕方ねぇ、良く聞け小僧っ!! この迷宮はな、一度入ると出られねぇんだよ。出ようと思っても、ボスを倒すまでは、絶対に出られないんだ……。────クソッ!! 情報を、タダで教えてやることになるとは……」



 スズヨウさんは悔しそうに、ダンジョンの仕様を僕に教えてくれた。


 ……嘘は、ついて無さそうだ。



 一度入ると、外に出られなくなる迷宮か……。

 出口そのものが、無くなるタイプの迷宮なのかもしれない。


 様子見でうっかり入ってしまえば、全滅必死のダンジョンの様だ……。

 



 …………。


 ……。

 

 このゲーム、初見殺し多くないか────?


 

 毒や麻痺持ちのスライムなんかも、準備せずに遭遇していたら対処できずに、高確率で殺されるだろう。


 僕の場合は、スズヨウさんという囮要員がいることと、ダークショットの威力が高くて助かっているが……。



 単独行動中に、うっかりイエロースライムの麻痺攻撃を受けてしまえば、ダークショットが使えなくなる。……それで終わりそうだ。


 パーティを組んでの攻略が推奨されているゲームだけあって、ソロプレイだとすぐに詰まる仕様のようだ。


 ボッチに厳しすぎる。

 ────これがいわゆる『クソゲー』というヤツか。





 まあ、それはともかく──

 入ったら出られない迷宮なら、今から入る訳にはいかないな。


「わかりました、スズヨウさん。────では森に入らない様に、この辺りを少し探索してから、村に戻りましょう」 



 ────まだ魔力には余力がある。


 この辺りでもう少し、経験値を稼いでから、村に帰るか……。



「ふっざけんな!! クソガキ!! 俺は毒喰らってんだぞ。────麻痺も一度喰らっちまってる。……テメーは後ろから、撃ってるだけだけどな。こっちは体張ってんだ。────もう限界なんだよ! 村に戻って休ませろや、コラッ!!」



「……元気じゃないですか。────まだ、大丈夫でしょ? ────僕のほうも、まだ魔力に余裕がありますから、もうちょっと粘りましょう。……お互い、頑張りましょうよ。────スズヨウさん」



 実戦を繰り返したことで、僕の魔力操作も精度が上がってきている。


 性質変化、具現化、放出。

 それぞれ消費魔力を押さえ、よりスムーズに攻撃出来るようになった。 



 スズヨウさんの方も、まだ余裕はある。


 麻痺攻撃は十分くらい経つと動けるようになるし、毒も時間が経てば、自然と抜ける。攻撃を食らった時のダメージはあるが、まだ大丈夫だろう。



 スズヨウさんはスライムの攻撃を、三発しか攻撃を食らっていない。


 毒の分の追加ダメージはあるだろうが、それほど大きくは無い──

 あと一回だけ、攻撃を受ける余裕がある。




 僕のダークショットも精度が上がったし、弾丸を三つ同時に作って、三連射が出来るようになった。


 スズヨウさんが攻撃を受ける前に、敵を倒せるだろう。



 今日を含めて、あと三日しか彼を雇えない。


 ────僕には猶予が無いんだ。



 スズヨウさんの身を案じる余裕なんて、僕にはない。

 この辺りをうろついて、ぎりぎりまで経験値を稼いでから村に帰る。


 この方針は、何があっても変える気は無かった。

 



 


 僕とスズヨウさんが、ブイロ村に帰還したのは夕刻だった。

 村を夕焼けが包んでいる。


「お疲れさまでした、スズヨウさん。────明日もよろしくお願いします」


「黙れクソガキ、────死ね!!」




 僕がスズヨウさんに挨拶をすると、彼は吐き捨てるように僕を罵倒してから、自分の家へと帰っていった。



 ……。


 やはり僕には、友達を作る能力が無いようだ。

 ────少し落ち込む。



 だが、落ち込んでいても仕方ない。

 切り替えて、やるべきことをやろう。



 僕は道具屋に赴き、ドロップアイテムを販売する。


 スライムの液体は、ブルーが五個、レッドが一個、イエローが三個、グリーンが四個ある。イエローとグリーンは金貨二枚で引き取ってもらえた。


 今日だけで、金貨二十二枚の収入になった。


 このお金で、抗麻痺薬と抗毒薬を、それぞれ二個ずつ購入する。

 抗麻痺薬や抗毒薬は、麻痺や毒攻撃の効果を打ち消すのではなく、麻痺や毒を受け付けないようになる薬だ。



 麻痺を受けてから治すのではなく、飲んでおけば麻痺状態にならなくなる。

 事前に服用しておくタイプのアイテムだ


 効果はともに一日、値段はそれぞれ金貨一枚だった。




 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv09 魔法使いLv08                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP      140/140

 最大MP       90/670


 膂力         28

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         26

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       



 装備

 旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス


 スキル

 魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出


 魔法

 なし


 特技

 ダークショット


 所持金

 金貨19枚 


 ボーナスポイント

       17


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