第4話 僕は突破口を見つける


 僕は目を覚ます。

 

 見慣れた天井──

 自分の家の自分の部屋だ。

  


「ふぅ……」


 安堵で、小さく息を吐く。


 ────良かった。

 ちゃんと現実に、戻って来れたようだ。



 ゲーム世界『ラスト・パラダイス』のブイロ村から、僕は現実世界の自分の家に戻ってきた。



 冒険者ギルドで笑いものにされた僕は、すごすごと宿屋に帰り部屋のベットで眠りについた。


 ゲーム世界からログアウトする手段は、セーフゾーンである宿屋で眠りに就くか、プレイヤーの意志で行う『緊急離脱』しか、説明書には記載されていなかった。


 緊急離脱は使用回数が限られている。

 一度だけしか使えない救済措置なので、出来れば温存しておきたい。 



 

 ……。


 それにしても……。

 

 最悪な目覚めだ。



 あんな大勢の前で、馬鹿にされるなんて────


 それに加えてボーナスポイントの割り振りに失敗したことが、心に重く圧し掛かっている。



「……はぁ」


 僕はため息をつく。


 もう一度最初から、ゲームをやり直すしかないよな。

 ゲームデータの初期化のやり方は、説明書には書いてなかった。


 

 ……。


 冷泉に聞くしかないか……。

 これも、気が重い。


 学校で冷泉に話しかけるなんて、僕にはハードルが高すぎる。


 でも、やるしかない……。



 僕は憂鬱な気分で朝食を食べて、学校に向かった。





 

「あっ、田中! おはよう!!」



 家を出たところで、冷泉が僕に声をかけてきた。


 ……え?


 …………ッ!!


 なんで、僕の家の前に冷泉が────?



「あのさ、学校じゃ話しにくいから、来ちゃった。一緒に、学校に行こう」



 …………。


 『来ちゃった』って、わざわざ、こんな所まで────。



 まあ、いいか──

 ちょうど僕も、彼女に聞きたいことがあったんだ。

 

 僕たちは一緒に歩きだす。






 僕はまず、ボーナスポイントの割り振りを失敗したことを話し、ゲームの初期化の方法を聞こうとした。


 聞こうとしたのだが……。

 ────最初に何て話しかければいいのか、思い付かない。


 言葉が出てこない。


 僕が黙って歩いていると、冷泉の方から僕に質問してきた。



「それで、どう? ゲームは、上手く行ってる────?」


 冷泉が期待を込めた、縋るような表情で問いかけてくる。



 …………。


 ……。



 僕は────


「────えっと、まあ、そこそこ、かな……?」


 失敗したと言えずに、適当な返事をしてしまった。


 

「ゲームが得意な田中が『そこそこ』って言うなら、────かなり手応えがあってことだよね。安心したよ! やっぱり、田中にお願いしてよかった!!」


 冷泉が嬉しそうに、喜んでいる。

 ────ますます、本当のことを言い辛くなる。


「それでね。ゲームはなるべく、早く進めて欲しいの────早くって言ってもクリアまで何年もかかるゲームだから、すぐにって訳にはいかないけど、……プレイヤーの中で、一番早く攻略を進めて欲しいんだ。…………お願いしていい?」



 冷泉にお願いされた。

 僕は────


「あっ、……うん、まだ始めたばかりで、何とも言えないけ……なるべく早く、進めるよ」


 了承するような返事をした。


「やったあ!」



 冷泉が喜んでいる。


 ────もう、後には引けなかった。




 冷泉は通学路の途中で、仲の良いクラスメートを見つけて、そっちに走っていく。


 走り去る前に、僕の方を向いて『また、後でね! 』と言って、小さく手を振ってくれた。


 ……。


 …………。



 僕は彼女の望みを、叶えてやりたいと思った。


 ────ゲームを、一番早く攻略しよう。



 ……。


 ……チョロいのは、自分でも分かっている。


 でも、可愛い女の子から、期待されているんだ。


 健全な男子中学生なら、応えたいと思うのは自然な事だろう。



 だが────

 ゲームのやり直しの仕方が、分からない。



 説明書に記載がなかった……。

 データの初期化は、出来ないのではないか?


 だとすれば……。

 失敗の続きから、何とかするしかない。






 僕は授業中、ゲームの進め方──

 これからの方針を考えていた。


 冒険者ギルドでパーティメンバーを募集したが、昨日のあの様子では集まりそうもない────

 

 ……魔法の使えない、魔法使いが出した募集だしな。


 レベルを上げれば魔法を覚えるかもしれないが、レベルを上げる為にはモンスターを倒さなければいけない。

 


 『ラスト・パラダイス』は、五人パーティでの戦闘が推奨されているゲームだ。


 魔法の使えない魔法使い単独で、モンスター討伐は厳しいだろう。



 …………。


 ……。


 絶望的ともいえる状況だが、打開策がないでもない。

 ヒントはすでにある。


 魔導士の指輪を使い魔力操作した後で、ステータスの『スキル』の項目に『魔力操作』が追加されていた。


 レベルを上げずとも、スキルの習得は可能らしい。

 現状の僕に出来ることは、魔力操作を色々試して、さらなるスキルを獲得することだ。


 そうと決まれば、今夜さっそくゲームに入り──

 魔導士の指輪を装備し、魔力操作を試してみよう。



 僕がそう思った時、左手の人差し指に指輪が出現した。


 えっ!!


 指輪を観察する。


 …………魔導士の指輪だ。


 魔導士の指輪が、現実世界に現れた。



 

 ────これは、どういう……?

 

 この指輪は、ゲーム世界のアイテムでは無いのか?


 

 僕は混乱したが、声を出して取り乱すことは無かった。


 今は授業中だ。

 目立つことはしたくない。




 その日の昼休み────

 給食を食べ終えてから、僕は人気のない校舎裏に向かう。



 左の人差し指には、魔導士の指輪が装備されている。



 校舎裏に着いた僕は、周囲に人がいないことを確認する。




 僕は昨夜の様に、魔導士の指輪に魔力を集めてみた。

 目には見えないエネルギーが、指輪の周囲に集まるのが分かる。


 ……魔力だ。




 ここから更に、試してみようと思っていたことをする。


 僕のステータスに、魔力属性が『闇』だと表示されていた。



 指輪に集まったエネルギーが、黒くなるようにイメージする。



 僕は目を閉じて、集中して思い描く……。


 黒、闇、漆黒────

 指に集まったエネルギーが、黒く光る……。


 そんな様子を想像してから、目を開ける。



 

 指に集まったエネルギーは、僕の想像通りに黒く光っていた。




 *************************


 名前    タナカ ジロウ           

 

 職業      冒険者Lv01 魔法使いLv01                       

 戦闘タイプ     特質系 時空間能力者

 魔力属性        闇  

 


 最大HP       140

 最大MP       670


 膂力         28

 体力        130

 魔力        830

 俊敏         26

 命中         55


 精神力       125

 運          70

 魅力        115       



 装備

 旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス


 スキル

 魔力操作 魔力属性変化


 魔法

 なし


 特技

 なし


 所持金

 金貨0枚 


 ボーナスポイント

        0


 *************************

 

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