ぼくのおねえちゃん

佐倉みづき

 僕のお姉ちゃんは、裏山にある祠に祀られている。

 そこは僕の家の裏手にあり、お父さんやお母さんの話によると僕の家が裏山と祠を代々管理しているのだそうだ。鬱蒼と茂った緩やかな傾斜を登っていくと頂上に小ぢんまりとした祠がぽつりと佇んでいる。

 裏山への道を整備して祠を綺麗にするのはお父さんの仕事で、その前はおじいちゃんがやっていた。僕もついて行きたかったけれど、強く止められた。

「いいか、あの祠には恐ろしいバケモノが封じられている。お前のような子供は決して近づいてはならん」

 二年前に亡くなったおじいちゃんは皺くちゃの顔を更に顰めた怖い顔で何度も僕を脅かした。僕は不思議に思った。お姉ちゃんがあそこにいるのに、どうして近づいちゃいけないんだろう。

 お姉ちゃんは僕の双子の姉で、産まれる前に死んじゃったらしい。祠はミズコクヨウのために建てられたから、それでお姉ちゃんはそこにいるんだって言ってた。ミズコクヨウってのが何なのか僕には解らなかったけれど、お姉ちゃんみたいな可哀想な子達にごめんねってすることなんだよって教えてもらった。

 僕はお姉ちゃんに会いに、おじいちゃんやお父さんの目を盗んでは度々祠を訪れていた。お姉ちゃんと僕は双子だから、お姉ちゃんが寂しいよって呼んでるのがわかるんだ。お姉ちゃんと過ごすきょうだい水入らずの時間は楽しかった。

 僕の家が昔からこの辺りを牛耳る地主だっていうのも、全部お姉ちゃんから聞いた話だ。お姉ちゃんと僕みたいな双子はイミコと呼ばれて大人から嫌われていたこと。家を継がせるために男の子を欲していたけれど、望まない子やイミコが産まれた時は人知れず処分してはクヨウしていたことも。

 お姉ちゃんは物知りで、僕が知らないことをたくさん教えてくれる。おかげで僕も同年代の子達より少しだけ賢くなった。

 それなのに、お父さんもお母さんもお姉ちゃんの存在を認めようとしないばかりか僕にひた隠す。確かにお姉ちゃんは無事に産まれてこられなかったけれど、だからって最初からいなかったことにしなくてもいいと思う。

 まさか、僕らが双子だからイミコとして扱われているんじゃないか。だからお姉ちゃんを悪いモノと決めつけてるんじゃないか。僕は両親への不信感を募らせていった。

 僕はお姉ちゃんから色んなことを教わる代わりに、お姉ちゃんが見られない外の世界について教えてあげた。学校のこと。友達のこと。見つけた新しい遊びやオモチャのこと。おいしいおやつのこと。

「いいなあ、私もヒロくんみたいに外で自由に遊んでみたい」

「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ」

「でも、私はここから出られないの」

「だったら、僕がそこから連れ出してあげる」

 約束した僕は家の蔵からこっそりと鍬を持ち出して裏山を登ると、お姉ちゃんのいる祠に向かって叩きつけた。こんなものがあるからお姉ちゃんは閉じ込められて外に出られないんだ。

「ありがとう、ヒロくん。ここから出してくれて」

 ありがとう、ありがとう。お姉ちゃんが口々に囁く。壊れた祠の隙間からたくさんの手が伸びてきて、僕を強く抱きしめてくれる。そんなに嬉しかったんだ。僕も嬉しいな。でもちょっと痛くて苦しいよ。

 僕達私達は一つになれた。これで一緒に遊べるね。

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