第13話 リュック
目が覚めると、外だった。青空と草木だけが見える。外でただ誰かを待っていた時と同じ光景。それと違うのはゆらゆらと揺れるリュックの中だということだ。俺は、リュックの上部から少し頭が出る形になっている。
「シーパ?」
「やっと起きたね。ラップ君。死んだのかと思ったよ。」俺を入れたリュックを背負うシーパは歩きながら言う。
「早起きだな。」
「ラップ君が遅起きなんだよ。冒険者の朝は早いんだよ。朝早くにギルドに行ってゴブリン8体討伐のクエスト受けたし…」
「8体も?大丈夫なのか?」昨日の傷だらけのシーパの姿を思い出す。
「そう。昨日、5体倒したから大丈夫って言ったらいけた。私にはラップ君がいるからね。」シーパはニコニコした笑顔で俺にクエストの情報を書いたらしい紙を3枚見せる。
ゴブリンらしき絵とこの世界の文字が書かれた紙を見るが俺には読めない。
「それは、俺も手伝うとは行ったけど…3枚?」
「ランクがF+に上がったからね。3枚まで受注できるようになったんだよ。5体討伐のクエストが3枚で5足す3で8体。頑張ろうね。ラップ君。」
「えっ?15体じゃないのか?」
「なんで、15なの?ほらここ見てよ。ラップ君。」そう言って後ろにいる俺の目の前まで紙を近づける。
「俺、文字読めないんだよ。」
「そうなの?学がないねー。ラップ君。」シーパが小馬鹿にしたような口調で言う。
「シーパだって計算できてないだろ。5が3つは5掛ける3で15だ。」
シーパはあまりピンと来ていないようだ。
「だから、5を3つ足すんだよ。5と5と5で。」
「えっと、5が3つだから…」
シーパはしばらく考え込む素振りを見せたかと思ったら、急ににこやかな顔で話し出す。
「ほら見て、おっちゃんのところ寄って、このリュック貰ったんだよ。いいでしょ。これ。」話を切り替えたシーパは機嫌よく歩く。
「だから、15体だって。」
「居心地は?」
「居心地とかじゃなくて、15体だから。ゴブリン。倒さないといけないの。」
「いつまで言ってるの。ラップ君。落とすよ。」そう言ってシーパは激しくピョンピョンとジャンプする。
「落ちる。落ちる。危ない。」その振動を受け、リュックの中で跳ねる。
急にシーパが止まり、パタッとリュックから落ちる。
「おーい。シーパ。おーい。」シーパに俺が落ちたことに気づいてもらおうと声を張る。
「ラップ君黙って、」シーパは静かな声で俺を制す。
「どうした?」つられて小さな声で聞く。
「あれ…」そう言ってシーパが指を指す先には2体のゴブリンが豚のようなものを運んでいる姿が見える。
「ゴブリンじゃないか?何しているんだ?倒さないのか?」
「多分、あの動物をゴブリンの巣に持って帰る途中なんだよ。どこに巣があるか分からないから、今襲ったらいっぱい出てくるかも…」
「そうか。」ゴブリンのことについてはシーパの方が学があるので素直に従う。
「ゆっくり近づくよ。静かにしといてね。ゴブリンは目は悪いけど、耳はいいから。」シーパは足音を潜め、森へ入っていくゴブリンを追跡する。
「あそこがゴブリンたちの巣なんだな。」俺が言うと、シーパは黙ってうなづく。
数十分ほど歩いた森の中、少し山がちになってきた場所。山肌の露出した穴にゴブリンたちが頻繁に出入りする姿が見える。その出入り口には入ってくる物を調べる門番のような働きをする2体のゴブリンが構えている。
「意外と社会的なんだな。役割分担とかもして…」ただの動物の延長としか見てなかったゴブリンの行動に驚く。
「アリと一緒だよ。本能でしか動いてない。」シーパの冷静な言葉に気を引き締める。彼女はこの世界で生きているんだ。俺も驚いてばかりではいられない。殺す。それだけを考えて、ゴブリンの巣を観察する。
ゴブリンたちは四方から巣に集まり、四方に離れていくがその経路が前のゴブリンと同じなのに気づく。アリと一緒?アリは前のアリについていくのに前のアリのフェロモンを辿ってついていく。ゴブリンはそれと同じようなことをしているのか?
「なんで同じ道を通って行くんだ?」
「同じ道って?」
「ゴブリンの通る道っていつも同じなのに理由があるのかなって。」
「ただ、普通に獣道みたいに通ってるうちに通りやすい道ができただけじゃない?」
「そうか。なら、ゴブリンの通る道にトラップを仕掛ければ効率よく倒せるんじゃないか?」
「トラップって?」
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