マオウ

 優しい闇に包まれた。暖かな蜂蜜で身体を覆われるようだった。

「大丈夫だよ、メメ。さびしい思いも、ひもじい思いも、さむい思いも、こわい思いも君にはさせない。俺のものになってくれてありがとう」

 カペルの声に安心し、メメはあたりを見回したが、闇があるばかりで何も見えない。

「どこ? ねえカペル、わたしたちどうなったの? さっそくこわいんだけど!」

「ごめんごめん」

 手を握られる。篝火花シクラメンを摘んでくれた日に、守ってくれた手だった。じわりと安心がひろがって、メメは身体がゆったりと落ち着くのを感じた。

「君が俺に力をくれたんだ。俺のものになってくれたから、俺はもう地上の誰にも負けない。それから、ええと、メメの事をもっと気持ちよくしてあげられると思う」

「えー、カペルいやらしいンッ、だ」

 優しさや安心がカペルの形で触ってきたように感じた。

 メメの肌を包む闇は確かさを増して、熱く柔らかな所に触れ始めた。身体の芯が甘い稲妻に包まれて、メメは胎内でうごめカペルの形に没頭した。

 


 

 最愛の人が悦ぶ声を聞いていた。

 カペルもまた、同じ闇の中にいた。

 闇はカペルの声で語った。



「植物は、実に様々な方法で種を運ぶよな」


 カペルは思い出した。自らの故郷は北の果て、魔物と人間の戦いの境界線にあったことを。そこで多くの人間が捕らえられた事を。それらを全て忘れていたことを。


「でも、俺の種子が聖女をモノにするとは思わなかった。最後の最後まで、発芽を待って良かったなぁ。お前、大手柄だよ。おめでとう。だから俺の中で永遠に生きてくれ。俺が見る物をお前も見て、俺が感じる事をお前も感じるんだ」


 カペルは声を奪われている。身体を動かせないのに、メメの肌を、声を、潤む瞳を、夢中で吸い付いてくる唇を、熱く溢れてくる蜜を、その他の全てを感じている。

 闇がメメを抱き、その感覚を流し込まれている。


 闇は巨大で節くれ立った樹木の形をしていた。

 外から見れば、その幹からメメの上半身が生えているように見えた。上半身は悶え、高い声を上げて何度も達した。その瞳は開いていたが、何も写していなかった。

 闇の樹は、命ある泥のように、滑らかに形を変えた。

 

 カペルは幹の反対側に身体の前半分をうずめられ、声に出せない呪詛をあらん限り闇へとぶつけ、望まぬ快楽を得ては絶頂した。

 二人の聖騎士はそれぞれ枝葉へ身体を取り込まれ、闇に嬲られて射精を繰り返していた。

 

 闇は優しく語りかけた。

「行こう、メメ。ずっと一緒だ。女神の愛した連中を、俺たちでみんな堕とそう」


 この日、新たな魔王が誕生し、そして聖女は魔女となった。

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