第15話
「信じられないのなら、広場に着いてから魔法の使い方を教えてあげよう」
オズの言葉にフェリスは目を輝かせる。
これまで自分にできないと言われていたことが、ある日突然できると言われて素直に信じられるかといえば、そうではない。
しかしできないことができると言われると、その可能性を信じたくもなってしまった。
なまじこの男は胡散臭いがこれまで言った事に嘘が無い分、本当なのかもしれないという気持ちが湧いていた。
「わかったの。ほ、本当に使えるなら……」
その声は歓喜と戸惑いに震えていた。
「いいだろう。人間は魔法の使い方を勘違いしているから、人間のそれとは違う方法になるだろうが構わないね?」
「もちろん!」
ワイバーンの飛行速度は馬の移動速度を圧倒的に凌駕していた。
流石一晩で一つの国をまたいで帝都のそばまで来ただけある。
あっという間に帝都騎士団の広場に到着した。
フェリスたちを下ろすとワイバーンたちは消えていった。
広場は夜でも最低限の灯りが灯されており、お互いの姿を認識する程度には明るさが保たれている。
見回りの騎士が周囲をうろついているが、明らかに侵入者であるフェリスたちの事を認識している様子はない。
「それじゃあまずは簡単な魔法から教えよう」
そう言うと、オズは片手を出してもう片方の手でパチンを指を弾く。
オズの手のひらの上に火がともった。
「魔法というものは起点を作ってイメージし、そこに魔力を乗せれば形になるものだ。我々魔族や妖精たちはそれをよく知っているから指を鳴らしたり、簡単な動作を起点にする」
確かにミアも指を鳴らして魔法を使っていた。
「人間の場合、起点を言葉にしている。魔法を使う時、人間は決まった言葉を唱えるだろう?」
同僚たちが魔法を使う時、確かに呪文を唱えていたことをフェリスは思い出す。
「人間の魔法は決まった言葉をイメージの補強として使う。だから決まった言葉で似た魔法が使われる。けれども、さっき言ったように魔法は起点を作ってイメージをすれば魔力を乗せるだけでいい。結果が大体同じだから同じ魔法を使っていると人間は思っているかもしれないが、毎回違う魔法を人間は行使している。もちろん、我々魔族もね」
一度手のひらの上の火を消すと、もう一度指を鳴らして火をともした。
「先ほどと同じように魔法を使ったが、これは同じ魔法ではない。なぜなら同じ魔法を使うには先ほどと全く同じイメージをして全く同じだけの魔力を乗せなければ同じ魔法ではないからね。そんな魔法は生き物には到底無理な話だ」
同じことが起きたのに、違うことが起きているとオズは言う。
小難しい話にフェリスは内心首を傾げた。
「まあともかく、基本は起点を作ってイメージに魔力を乗せることさ。まずは魔力を操る事から始めようか」
そう言うと、オズはどこかへ向かって歩き出す。
その辺にいた騎士に声をかけると、騎士が案内を始めた。
それに着いていくと倉庫に案内された。
月明かりが倉庫を照らす。
「ああ、あった、これだね」
そう言って暗い倉庫の中から透明な球状のものをオズが手に取った。
「魔力には色がある。俺の場合はこの色だ」
手に持った急に手をかざすと、透明な球に深紅に光る。
「これは魔力の色を引き出す魔道具でね。手をかざすと魔力を吸ってその者の色を教えてくれるんだ」
「へえ……」
かざした手をどけると球は透明な姿に戻った。
興味津々にフェリスはその球を覗き込む。
魔力が本当に自分にあるのなら、球の色が変わるんだろう。
オズが球を差し出す。そこにフェリスが手をかざした。
体の中のなにかが引き出されたような感覚がした。
「わっ」
ランプに光を灯したように真っ白な光が倉庫を照らす。
突然の光に目がちかちかする。
フェリスが思わず手を引くとその光は消えた。
オズは口角を上げ上機嫌そうだ。
「やっぱり、君には魔力があっただろう?」
「そ、そうみたい……」
信じられない、という目でフェリスはかざした手を見つめていた。
「さっき何かを吸い上げられる感覚はなかったかい?」
「あったよ」
「その何かが魔力だ」
微かな感覚過ぎてよく分からなかったが、未知の感覚がしたのは確かだった。
感覚を掴みたくてもう一度手を球にかざす。
またなにかが引き出される感覚がした。
白い光が場を包む。
「やはり珍しい色をしているね。普通の人間は白くはならない」
ご機嫌な声でオズは言った。
「普通の人はどんな色になるの?」
「俺が飼っていた人間は赤や緑、青……少なくとも、白は居なかったね」
オズは複数人間を飼っていたらしい。
自分には珍しい魔力が宿っていた事にフェリスは驚く。
「魔力の色って、なんの意味があるの?」
「魔力の色は魔法をイメージするのを容易にさせる。赤色の者は火の魔法が上手かったし、緑色の者は風の魔法が上手かったよ」
「そうなの」
「あくまで他より容易になるだけだがね」
ここでフェリスは当然の疑問を投げる。
「じゃあ白は?」
「それは分からないな。なにせ初めてみた色だからね」
興味深そうにオズは顎に手を当てていた。
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