廃虚の美少女(短編)

小原ききょう

第1話 失業

「廃墟の美少女」


◆失業


 この夏、俺の人生で最悪の夏となった。

 テレビでは、連日のように最高気温の更新を報道しているが、俺はそれどころではなかった。

 俺の属していた会社は不動産会社だった。会社は五年前、畑違いのホテル業に手を伸ばした。ホテルの支配人から従業員まで素人集団だ。そんな事業が上手くいくはずもない。借入金は大きく膨らみ、すぐに従業員の給与も支払えなくなった。

 俺は、そんなホテルの事業部長についていたのだ。当初は新ホテルの長として歓迎されたが、すぐに事態は変わった。

 ホテルの最期には、その責任の全てを押しつけられた格好となり、挙句の果てに依願退職を迫られ、雑多な条件の元、俺は受けざるを得ない状況に追い込まれた。

 物事は進みだすと、あっと言う間だ。気がつくと俺は無職という立場になっていた。


 取りあえず金はある。四〇歳は目の前だが、家族を持っていなかったのは幸いだった。

 俺は、しばらくは、職探しもせず、自由になった時間を謳歌すべく街を徘徊した。 酒を飲んでは、また別の店で飲む。そんな無意味な繰り返しを楽しむことにした。

サラリーマンとなって20年。全ての体力と知力を会社に注ぎ込んできた。そこから 解放されたのはいいが、俺はこれといってすることもなく、緩慢な日々を送っている。

 これから、どうする?

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