第12話

「真司君、大丈夫?」

 真司の背後からあの少女の声がした。真司はゆっくりと振り返って見ると、少女の手には血だらけの鉄パイプが握られたいた。

「ずいぶんやられちゃったねぇ。私が代わりにやっつけといたよ。死んだかなぁ」

 少女は平然とそう言うと、倒れている男たちの服のポケットを物色し始めた。


「君、何をやっているの」

 真司は独り言のようにつぶやいた。

「お金、持ってないかなって思って」

 真司はその様子を呆気に取られて見ていた。


「何、これ?」

 少女が何かを手にして、不思議そうにそれを見ている。

「こんな物も持ってたんだ。これいただいておこうね」

 少女は拳銃を握っていた。それを持っていたバッグの中にしまうと、遠くでサイレンの音が聞こえた出した。真司がいる場所に次第に近付いてくる。

「逃げるよっ!」

 少女は傷だらけの真司の手を引っ張って走り出した。


 どこまで逃げたのか全く分からない。真司は全身が汗でびしょ濡れになり、身体中の痛みに耐えかねて、建物の陰にへたり込んでしまった。少女はなぜか汗一つかいていない。


「真司君、もうばてたの」

 少女は息切れすらしていない。

「君、たいへんなことをしてしまったんだよ」

 真司はかすれるような声で言った。


「あの人たちのこと。あんなゴミみないなやつら、どうなったっていいじゃない」

 少女に悪びれる様子がない。その態度が返って真司の恐怖心を増幅させた。

「悪いけど、もうぼくに関わらないで」

「関わらなくてもいいけど、このまま逃げ続けないと、家に帰ったって警察に捕まるだけだよ。いっしょに逃げよ」

 少女は真司の手を引こうとしたが、真司はそれを振り解いた。


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