とある公園のベンチで

Karura

第1話 箱と道 前編

「やぁ少年、今日は君が勝ったようだね?」


 休日の昼下がり、休日と言う事で子連れで、賑わっていた公園もお昼ご飯を取るためか、少し閑散としていた。


「何の勝負ですか?」


 端の方では、砂場で「帰りたくない」と駄々をこねている子供がいる。


「いつもは私が先にそこに座っていて、君が後に来る。けど今日は違った」


 そう言いながら、彼女は俺の隣に座ってきた。


「別にいいじゃないですか。いつもと座っている位置が違うならまだしも、今日も一緒じゃないですか」

「そう言うわけじゃないんだけどなぁ」

「どう言う意味ですか?」

「少年、秘すれば花と言う言葉を知らないのかい?」

「特に理由はないと言うことですね」

「少年……よく空気が読めないと言われないかい?」


 いつもの公園、いつものベンチ、いつもの景色、いつもの空気。そしていつもの


「ん?なんだい?そんな見つめて?」

「いえ、何でもありません」


 俺は、この人のことを良く知らない。ほぼ毎回この公園に来るたんびに話すけど、年齢も、名前も知らない。と言うか、聞こうとも思えない。いつからだろうか、互いを詮索しないのが暗黙のルールとして定着していた。だから、触れないし、触れられない。けど俺はその関係が少し……


「いい加減にしなさい!」


 突然、砂場の方から声が聞こえた。


「やーだ!帰りたくない!」

「明日、明日も公園行くでしょ?」

「やーだ!」


 どうやら、さっきの子供がまだ駄々をこねているようだ。


「んじゃぁ、お昼食べたら、またこよう!ね!」

「やだ!壊されちゃう!」


 「壊されちゃう」?


「私も子供の頃あんな感じだったのかな」

「どうしました?」

「いや、少年はイヤイヤ期を知ってるかい?」

「まぁ、学校で習いましたけど……」

「明確な理由はないけど、大人に反抗したくなる。俗に言う、第一次反抗期ってやつだね」

「んじゃぁあの子も意味もなく反抗しているんですか?」

「いーや。砂場をよく見てごらん」


 彼女に言われたどおり、砂場に目を向けると、少し山場ができていた。


「あの子は……いや彼はあれを守っているんだよ」

「確かに、公園の砂場って、出入り激しいですもんね」

「うん。おそらく、急いでお昼をとってもほかの子に壊されちゃうだろうね」


 ここの公園の砂場は狭い、せいぜい子供4人が遊べる程度だろう。その希少性だからか、人気だ。やはり子供時代にも、希少性による価値の上昇はあると思うと少し、寂しくなる。


「それじゃぁ私は行こうか」

「もう帰るんですか?」

「いや、あの子の作ったものを守りにね」

「は?」


 俺が驚愕している間に、彼女は子供のもとに近づいた。


「そこの坊や、君のお山は私が守っておくから、食べてきなさい」

「えぇ?」

 

 子供は少し困惑していた。それもそうだろう。いきなり知らない大人がきて、「君のお山は守っておくから…」なんて言われれば、誰でもそうなる。なんなら、大人でも困惑する。


「いいんですよ!こんなの、後でいくらでも作りなおせますし……」

「こちらこそいいんですよ。どうせ暇ですし……坊やはどうしたい?」

「すぐ帰るから!」


 そう言うと子供は走り去っていった。母親が帰り際、ジロッとお姉さんを見ていたが……


「少年!暇だから、こっち来てくれよ!」

「いやですよ。そっち日向じゃないですか」

「別にいいじゃないか。日光に浴びるとビタミンDがでて健康にいいんだぞ」

「こちとら、学生なんで浴びまくりですよ」

「いいから、同じ公園のよしみとして」

 

 「同じ公園のよしみ」ってなんだよ。そう思いながら、ベンチから立ち上がり砂場に入る。


「少年」

「どうしました?」

「あつい」

「だから言ったじゃないですか」


 まだ一分もたってないぞ。


「お姉さん、お姉さん」

「なんだい、なんだい?」

「あの子が来なかったどうするんですか?」

「明日まで待つかね」

「暇人ですか!?」

「暇人だよ?」

「と言うか。帰り際お母さん睨んでましたよ」

「そうだね」

「あれ絶対、公園行きたくなかったパターンですよ」

「おっ、少年も察しがよくなったね」


 のんきだなぁ


「お姉さん、お姉さん」

「なんだい、なんだい?」

「相談があるんですけど……」

「悪いけど、今暇じゃないんでね」

「さっきまで自分のこと暇人と言っていたじゃないですか」

「今はアリを見るのに忙しいんだ」

「暇人じゃないですか」

「君は人によって価値観が違う事を知った方がいいね」

「ごめんなs」

「まぁ冗談だけど……」

「をい」

「それで、相談って?」

「物事って結局は無に帰りますよね?」

「急に思想が強いね」

「あの子が作った山を見て思ったんですよ」

「中二病かい?君も高校生なんだろう?卒業s……」

「違います!……話を戻しますね。結局、この山が完成しようとしまいと、この山は壊れるわけじゃないですか」

「そうだね。中二病君」

「それいつまで、引きずるんですか?……壊れるのが、自然になのか、人によってなのかは置いといて、結局壊れるわけです。その後何が残るんでしょうか?」

「これは重症患者だ!」

「だから!いつまで引きずるんですか!?」

「私が飽きるまでだけど……君は一つの山からそんなことを考えていたのかい?」


 ……


「……そうですね」

「別に作る過程を楽しめばいいじゃないか。君はゲームをするときに「この後なにがのこるんだろう?」なんて考えて楽しめるのかい?別に娯楽なんだから、そんな考える必要はないと思うよ」

「……」

「だまっちゃったか……でもそういう思考は大事だよ。何なら、「君には一緒に待つ」って言う行動を半ば強要しているからね。動機が……」

「さっき、「一つの山から考えた」って言ったじゃないですか」

「うん」

「あれ違くて、少し最近悩んでることと結びつけてたんです」

「ほう。結構長くなりそう?」

「……お姉さんこそ空気が読めないって言われません?」

「友達、君ぐらいしかいないから」


 何だろう、哀れに思えてきた。


※※※


「お姉さんはずっと続けていた物を中断したことはありますか?」

「そりゃぁあるよ。人間だもの」

「どこのみつをですか。それじゃぁソレを再開したことは?」

「そりゃぁあるよ。人間d……」

「もう、みつをはいいですよ……」

「えぇ~」

「その時、少し感覚が鈍かったりしません?」

「そりゃぁあるよ。人g……」

「怒りますよ?」


 この人真面目に聞いてるのか?


「俺思うんですよ。経験って箱に例えられるって」

「箱?」

「そう箱です。それも風が吹けば倒れてしまうくらい軽い箱。その箱を積み上げていくのが経験だと俺は思うんですよ」

「若いのによく考えるねぇ」

「馬鹿にしてます?」

「いや、私がそのぐらいの時何やってたかなぁーって思って」


 確かにこの人何やってたんだろう?フツーに高校通ってたんだろうか?なんだかんだヤンキーとかも似合いそうな雰囲気もある。


「気になる?」

「いいえ」

「ちぇ、話それらせなかったぜ」

「相談する相手間違えたかも……」

「冗談!冗談だから!それで箱がなんだって!?スゲー気になるなぁ!?」


 わぁスゲー感情こもってねー。


「話を戻しますよ……それで思うんですよ。いつかは全部なくなるんじゃないのかって。だから、常に走り続けないといけないのかって。休憩する暇はないのかって。自分でも分かっt……」


夢を抱いといて虫が良すぎるのは分かってるけど……


「それは違うと思うよ」

「え?」


 驚いてつい。間抜けな声が漏れてしまった。


「んじゃぁ次は私のターンだ。私はねぇ経験は道だと思うんだよ」


※※※


あとがき


次回、「箱と道 後編」!


 ここまで読んでくれてありがとうございます。良ければフォロー、いいね、星をくれると作者が泣いて喜びます。



 ……何の前日談なんなんでしょうねぇ?








 


 






 


 

  


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