第13話 葬儀

 私は茫然ぼうぜんと、そこに立ち尽くすしかなかった。

 

 麻美さんは、顔はこちら向きなのに、体は背中を向けていた。

 その顔は、私を見て、嬉しそうに笑ったままであった。


 救急車が到着したが、ビルから飛び降りた女性も、その巻き添えになった麻美さんも、その場で死亡が確認された。

 

 通夜と葬儀の段取りは、私が勤務していた新聞社が手配してくれた。

 私と同期入社で親友でもある西田君は、

「残念だったね、いいこだったのに」

 と私を慰めてくれた。

 

 通夜には焼きとり屋のおじさんも来てくれた。


 葬儀が終わって麻美さんの遺体を荼毘だびにふし、お骨を彼女の祖父母の家に連れて帰る時、私たち三人が乗ったタクシーが小型トラックに追突された。

 追突と言っても、「コツン」と当たる程度だったので、誰もけがはしなかった。

 

 私は、

「こいつ、骨になっても事故を呼びやがって」

 と思った。


 麻美さんのおじいちゃんとおばあちゃんの家には、麻美さんのご両親を祭ってある仏壇があった。

 

 私は、麻美さんの遺影をご両親の遺影の間に置いた。

 

 私が婚約指輪を麻美さんの遺影の前に置くと、遺影の麻美さんが嬉しそうに笑ったような気がした。

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