第12話 婚約指輪

 私はその日、休暇を取って婚約指輪を買いに行った。

 しかし、私は麻美さんに、『婚約指輪を買いに行く』とは言わなかった。

 それは、その日の夕方のデートで彼女を驚かせようと思っていたからだった。


 私は買った指輪をケースに入れてもらい、麻美さんの喜ぶ顔を想像した。


 今までそうだったように、「事故星」が付いている麻美さんでも、自分がそばにいれば彼女を守れると、私はたかをくくっていた。

 

 そして私には、「彼女と一緒にいたらスクープが手に入る」という打算もあった。


 私は、その日に買った婚約指輪を麻美さんに渡して二人で美味しいものを食べようと、午後六時に、「メットライフ天神ビル」の前で待ち合わせていた。

 

 私がポケットに婚約指輪を忍ばせて、交差点の赤信号が変わるのを待っていた時であった。


 交差点の向かいにある麻美さんが立っているビルの上から、人の形をした白いかたまりが落ちてきたのである。


「麻美さん、危ない」

 私がそう叫んだ時、麻美さんは私に気づいて、嬉しそうに手を振った。

 

 ドスン

 その白い塊が麻美さんを直撃し、辺りは血の海になった。

 麻美さんは、飛び降り自殺に巻き込まれたのだった。

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