祠が壊されていた

アイアンたらばがに

ある山奥にて

 十月に入り、寒さの深まる頃だった。

 祠が壊されていた。

 あまりのことにうまく頭が回らない。

 少しの間出雲の方に出かけていただけなのに、帰ってきたらこの有様だ。

 重機で土台ごと根こそぎ倒されて、火を付けられて、形あるもの触れられるものは全て壊されている。

 とりあえずその辺に居た見覚えの無い人の骨を一本ずつへし折って心を落ち着ける。

 そう言えば知り合いから似たような話を聞いていたな。

 なんでも近頃は私たちのようなか弱い者の祠を壊す度胸試しが流行っているとか。

 なんという事だ、まさか我が身にそんな不幸が襲い掛かるだなんて。

 仕返しをしてやりたいけれども、下手人すらわからないこの状態では手出しのしようも無い。

 見覚えの無い人を末端から小さく纏めながらどうしたものかと考えていると、ふと声が聞こえてくる。


「祠を壊してはならんとあれほど……!」


 近くの村に住み着いてる人の声だ。

 どうやら祠に起きた事件について何か知っているらしい。

 渡りに船とはこのことだ、早速聞きに行こう。

 そう思って村まで降りてきてみれば、村人が見覚えの無い人に囲まれて怯えているようだった。

 がやがやと何かを話している見覚えの無い人がとても耳障りで、思わず音の出処を断ってしまいそうになる。

 するとこちらに気付いた村人が、助けてほしそうに震える目を向けてきた。

 なるほどこいつらに脅されでもしたのだろう。


「ひぃっ、来てしもうた……もう、もうおしまいだ……」


 頭を抱えてうずくまる村人。

 隣人なのだから、困っているなら助けてあげないといけないな。

 早速周囲に居た見覚えの無い人の四肢をもいで目を潰す。

 舌は残しておかないと話が聞けないので、きちんと残してあげる。

 あまり甘やかすのも良くないことだけど、目的があるから仕方が無い。

 当面の安全を確保できたことだし、村人に祠について聞かなければ、


「祠についてなんだけど、何か知っているか?」


 そんな風に優しく問いかければ、村人はすぐにいつもの震え声で答えを返してくれた。


「メ、メガソーラーの建設だとかでこの土地にも工事が入り、こちらの訴えも聞かずに工事会社が破壊したのであります……!」


 こちらに頭を下げる村人、その手には何やら紙が握られていた。

 その紙を貸してもらって中を見る。

 なにやら色々人の名前が書いてある。

 とりあえずここに書いてある人たちが関係者だとみていいだろう。


「ありがとう、これで色々分かったとも」


 村人に感謝してあげると嬉しそうに大きく息を吐いた。

 とりあえず用済みになった見覚えの無い人たちの舌を引き抜いていると、村人がその場を離れようとする。


「ちょっと待って、まだ用事がある」


 そう声を掛けると村人がビクンと跳ねて動きを止めた。

 その間にちゃんと村人の目を潰しておく。


「ひぐ、ぃっ……!?ぁが、な、んで!?」


 なんでと言われても、さっき姿を見たんだから潰さないといけない。

 本当だったら喉も潰しておかないといけないのだけれど、質問に答えてもらったのでそれはチャラにしておいた。

 愛着というものだろうか、やっぱり近くに住んでいる人には甘い対応になってしまう。

 ともかく紙に書かれている名前の数を数える。

 間違いの無いように二度数えて、百十個。

 こういうのは後回しにするとどんどん面倒になると聞くし、早速片付けてしまおう。

 名前が分かっていればわざわざ出向く必要も無い、呪詛を与える準備だけがただ億劫だった。

 土台が掘り返されていたのだから、足を掘り返して中身を引きずり出す。

 火を付けられ焦がされたのだから、火をつけて焼き焦がす。

 形を無くすほど壊されていたのだから、形が無くなるまで壊す。

 呪詛はこの程度で良いだろうか、こういった準備の時はいつも何かを忘れている気がして不安になってしまう。

 あぁ思い出した、祠はまた作り直せる物なのだから、相手も作り直せるようにしなければ。

 相手が死んでしまわないように呪詛を用意しておく。

 明日には効果が出る様にしておいて、祠のあった場所へと帰る。

 祠こそ無いとはいえあそこに居るのが気分的にも落ち着く。

 直されるまでは久々に野宿でも楽しんでやろうか。


 後日のこと。

 聞けばこの山を切り開くメガソーラーだか何だかの計画は立ち消えたらしい。

 村人の献身もあって祠はすぐに立ち直り、宿無し生活も終わりを迎えた。

 これで無暗に姿を晒さずとも良くなる、万事解決と言えるだろう。

 またこれも聞きかじりではあるが都会の方では最近恐ろしい事件が起きたそうだ。

 なんでも人が一瞬にして肉塊になり、更にはその状態でも尚生きているのだとか。

 これを語る村人の声にも恐怖が滲んでいたように聞こえた。

 この村にはそんな恐ろしいことは起こりはしないと安心させてやると、村人も笑顔になった。

 やはり人には優しく接するべきだ、今度知り合いにもそう教えてやらなければ。

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