真岡シュピーゲルの挑戦

燈栄二

序章 – 真岡シュピーゲルの歩み

1. VS 仙台ツヴァイズィーベン

 二〇三七年の一二月二六日、私たちは間違いなく奇跡を目撃した。毎年行われるNリーガ一部一八位と二部三位の入れ替え戦。勝ち残った方が翌年をN1リーガで戦うことになる。


災害や不況を乗り越え、数年間にわたり残留争いを勝ち抜いていたN1の仙台ツヴァイズィーベン。対するは旧外地をホームタウンとする初のNクラブ、N2第三位、真岡シュピーゲル。


下馬評では過去に四度、入れ替え戦勝利でN2降格を免れていた仙台ツヴァイズィーベンに軍配が上がると考えられていたが、事実は小説よりも奇なり、という言葉を真にするかのように、真岡シュピーゲルは延長戦の末、仙台ツヴァイズィーベンを一対〇で下した。


審判の三度に渡る長いホイッスルが静かに鳴り響くと、青いユニフォームの選手たちが沸き上がり、ホームチーム側のゴール裏ではチームや選手の名が書かれたフラッグがゆらめき、歓声をあげるサポーターに涙を流すサポーター、拍手を送り続けるサポーターなど、真岡市民球場に来ていた全ての人々がクラブ史上初のN1リーガ昇格を喜び合った。


クラブ史の重要な一ページになるだろうこの勝利について、監督の清水陽平さんは


「ここからが始まりだと思っている。これで喜んでいてはN1では生き残れない」


と語り、真岡シュピーゲルのキャプテンで元日本代表のミッドフィルダー水田翔選手は、


「この瞬間をこのチームで、この選手たちとサポーターの皆さんと共有できた事実は俺の人生において最高の出来事です。次はN1リーグを制覇して、喜びを分かち合いたいです」


と昇格後を見据えた言葉をサポーターへ残してくれた。


チームはオフシーズンに完全移籍と言う形で刈谷FKからDFの三浦陽介を、ロシア一部リーグ所属のペテルブルクFCからルスラン・エフレメンコフを期限付きで獲得。


真岡漁業からの潤沢な資金援助もあり前年度に引き続き更なる補強を行った。日本代表を何人も輩出するような強豪揃いのN1リーガの中で、真岡シュピーゲルがどのように戦い続けたかを本書では追っていきたいと思う。

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