第22話 同盟


 ユリア様によって薔薇に囲まれた美しい庭園に連れられた私は、そこでなぜか優雅にお茶を楽しんでいた。


「いやあ、かわいい女の子とアフタヌーンティーするのはいいね。わざわざ薔薇園になんて普段は来ないんだけど」

「普段は何をされているんですか?」

「剣術の訓練とかかな。あとは、勉強。みんな白い目で見るけどね。王族の鼻つまみ者って言葉が聞こえたら、それは私のことだよ」


 平然と言ってのけるユリア様に、私は驚いて思わずじっと見てしまった。


 たしかにこの世界では、特に貴族・王族の女性ともなると、剣術を学ぶなんてもってのほかだ。

 とはいえ、鼻つまみ者だなんて言われたら傷つくだろうに……。


「ああ、なんとも思ってないから気にしないで。私も数年前まではもう少しお姫様らしかったんだけどね、バカらしくてやめたんだ。大嫌いな男に嫁がされるくらいなら、誰にも相手にされない鼻つまみ姫になる方がいいってね」


 まあ、両陛下は最近、このままじゃ勘当するとまで言いだしちゃって困ってるんだけど。


 そうあまりにも軽い調子で言ったユリア様に、私は尊敬と驚きで思わず小さな拍手を送る。


 その様子を見たユリア様がフッと笑い、そうして突然目をすがめて言った。


「国軍を見ながら、まともな歴史書はあるかしら、と言ってたね」

「え?! あ、いや、えーと……それは……」

「私も探したことがある。。だからあらゆる本をくまなく読んだし、家庭教師や宰相、父にまで聞いたけど違和感への答えは見つからなかった」


 ユリア様の言葉を聞いて私は驚いた。

 まさか、王族でさえ見つけられないというの?


 それか彼女が女だからこそ情報を制限されているのか……っていうか私、これからレヴィン様と話す時には周りに気をつけないといけないわね。


「王宮の歴史学者でさえ、トンチンカンなことを言うんだ。たとえばなぜ、ラートッハにしか魔法使いがいない? 日頃我が王族の血がこの世で最も尊いと言う口で、ヤツらはラートッハ王国は天に愛されたから魔力を持ったと宣う。馬鹿馬鹿しい」

「まあ! 同じことを思っていたんです! そもそもにして……」




 ◇◇◇




「ん? 美味しそうなお菓子が全然減ってないな。食欲ないのか? もーらい」

「テトラ、お前はラッセンみたいになるなよ」

「はい。いや、はいというか……ええっと」

「ユリアちゃんもシャーリーンも、なんだか晴れ晴れした表情だね」


 しばらくして、私とユリア様のもとに、キラめきを放つ美形集団────ルイスたちが現れた。


 いやはや、薔薇を背負う美形っていう図をリアルにこの目で見ることになるとはね。



 体がなまらないように、ということで、こっちにきてからはルイスもラッセンさんもテトラも、オスカー様と一緒に訓練に参加したり、ちょこちょこ兵士たちの練習試合に出たりしているらしい。


 その訓練終わりの四人だけど、ここがもともとゲームの世界だからなのか、美形はそういうものなのか、彼らからはまったく汗の臭いがしないから不思議なものだ。


「何にせよ、いい時間を過ごせたならよかったね」


 ルイスがにこりと微笑んで言った言葉に、私は深く頷く。



 そう、結果的に、私とユリア様はめちゃくちゃ気が合った。


 アフタヌーンティーの優雅な雰囲気などどこへやら、引っ張りだしてきた本を見合っては、日頃から感じていた大陸史の矛盾をお互いに指摘しあい、気づけば完全に意気投合していたのだ。


「どんな話をしたんだ?」

「そんなのは女同士の秘密ですよ、麗しのお兄様。まあ主に、おいしいお菓子とお茶についてですかね」

「大層に地図を広げてか?」

「……そりゃあ、産地や販売ルートなどについても話すので」

「最近のご令嬢はずいぶん深いところまで知りたがるんだな」


 オスカー様がやれやれといった表情を見せ、私は苦笑した。


 ……実際にはこの地図、ユリア様とっておきの気になるスポットとやらについて聞いた時に使ったんだけどね。



 ユリア様曰く、彼女がもっと小さい頃、グアラ王族の管理下にある敷地の森の奥深く、蔦がきつく絡まりあって道を塞いで普通なら誰もいけないようなところに、打ち捨てられた遺跡のようなものがあるのを見たらしい。


 小柄な子供だったからこそ潜り抜けられたのだけど、そのあとはもう行こうとしてもあまりに道が厳しく、それに場所の記憶も今では曖昧になってしまったけど、そこには確かにおかしなものがあった……とユリア様は言うのだ。



 一般的に、遺跡というのは歴史を語ることがある。

 だからこそ私たちは、力を合わせて一緒にそこを見つけて行ってみようと、先ほど約束したのだった。


 

「そろそろ夕飯だ。お前たちも一度戻れ」

「はいはいお兄様。ところでシャーリーン、今日からは私の寝室で一緒に寝ない?」

「私は今の部屋のベッド、気に入ってますけれど……」

「いや、私が、かわいい君をベッドで存分に可愛がってあげたいなと思って」


 ブフォ、と貴族らしくもなくむせたのはラッセンさんだ。


 私はユリア様の意図をはかりかねながらも、やっと手に入れたプライバシーのある時間を壊されたくない一心で答えた。


「いえ、大丈夫ですわ。私は、自分で自分を可愛がれるタイプなので」

「なんだそれ、すごくセクシーだな」


 突然ユリア様が興奮したように声を上げ、ラッセンさんがさらにむせたので、私は思わず首を傾げてから、はあ、そうですかね。と言って頷いた。

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