第二話

 あの頃のおでは全てのドアが和式につながっていたし、携帯は松屋にしかつながらなかった。「シュレディンガーの猫」というものがある。箱を開けるまでは猫は生きている状態と死んでいる状態が重なり合っているというやつだ。ドアをあけるまでは和式で古川が優奈のユニコーンをとんがりコーンしている状態と死んでいる状態が重なり合っているというわけか。これを応用すると、すごいうんこがしたい、かなり危機的状態だ。けれども実際に箱を開けるまではうんこを漏らしたおでと、涼しい顔をしたおでが重なり合った状態で存在する。たとえ漏らしたとしても、観測者が観測するまでは漏らしていない自分も重なり合っているのだ。これは漏らしてベチョベチョになっているおでとしては随分と心強い。


 クリスマスの夜、おでは駅のホームでうんこを漏らした。間に合わなかった。


「綺麗、キラキラしてる」


「肛門から出て大気に触れた瞬間に温度を失いうんこが凍っていくのさ」


「ダイヤモンドダスト。全ては凍り付く…」


 古川は小さく呟いた。キラキラと凍りながら粉末状になり、ゆっくりと落下していくうんこは風に舞い上げられ、静かに、音を立てずにゆっくりと滑空しているようだった。


「きっと秒速5センチメートルだね」


「ああ、それくらいだ」

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