第21話

「昨日出かけたでしょ?その時にね、私の思った通りの写真になってね」



 なんでお前なんだ。



「1番に雪くんに教えなきゃって」



 やめろ。



「それでね、」

「――じゃあ、もう終わりでいいな」



 やめてくれ。これ以上、俺を。



「……え?」



 彼女がピシリと固まった。

 楽しそうな表情が一変して困惑の一色に染まっていく。胸がジクジクと痛んでいるのを気づかないふりをした。



「ま、待って雪くん!」

「……俺を、これ以上惨めにさせないでくれよ」



 羨んでいた自覚はあった。

 隣に人がいるのが苦痛じゃなくなって、当たり前になって。俺が近づけない世界に生きる彼女が、莉子が羨ましいと。ほんの少しの嫉妬の種だった。


 いつからこんなにも醜く膨れ上がっていたのだろう。



「写真の外の想いがどうたらって言ってたな」



 彼女が息を呑む。俺が聞き流したとでも思ってたのか。あんな俺が考えつかないようなことを平然と言ってのけるお前が嫌なんだ。

 撮れたんだろ。その外の俺の想いなんて消えていったんだろ。なぁ。


 だったら、もういいだろ。



「消えてなくなったんならもう終わりにしよう」



 俺は莉子の顔も見ずにその場から走り去った。


 どんな顔をして俺を見ていたのかなんて、見られるはずがなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る