第14話 くそっ、どうなってんだ。まるで別人じゃないか?
皇居外苑に設置された周回コースは日比谷公園付近がスタート地点である。コースは北側に進み、皇居外苑の直線道路脇にピットレーンが設置されている。その北側の大手町を通過し、竹橋付近を通過すると、北の丸と本丸の間の代官町通りを通過し、右手に千鳥ヶ淵が見えた辺りで左折。桜田門を通過してふたたび日比谷公園手前まで戻ってくるのである。
ホームストレートにホバーバイクが整然と並ぶ。
スタートシグナルがひとつずつ赤く点灯していく。
江戸前レーシングは、6番手スタート。紗良の全神経がシグナルに注がれる。
5つ並んだシグナルがすべて点灯。次の瞬間、赤のランプは消え、緑ランプが点灯した。3戦目のレースがスタートしたのだ。
「うおおおおぉぉ」
紗良が猛ダッシュをかけて加速した機体は、スイートスポットを捉えて飛行を開始。一気に四位に浮上。先頭集団の最後尾についた。
先頭集団は一位が桜島レーシング、二位がメグロスカイビークル、三位がイエローバタフライ。紗良は前方のレーサーの裏にピッタリとつけていた。風よけのためであった。
無理して前に出ないその動きに、3位のイエローバタフライのライダーは混乱していた。前回の第2レースでは、どのコーナーでも常に順位争いを仕掛けていただからだ。
「くそっ、どうなってんだ。まるで別人じゃないか?」
20周が経過し、残り10周となった時、レースが動いた。バッテリー電圧が低下したチームが出始めたからだ。紗良の前方の1位から3位までのチームが一斉にバッテリー交換のためにピットインしていったが、紗良のバッテリーは残量に余裕があった。風よけ作戦が功を制したのだ。
紗良の元に無線交信が入った。
「バッテリーの残り容量はちょうど35%だ。このまま最後まで行けなくはないが、どうする?そろそろ交換するか?」
紗良は答えた。
「交換せず最後までいく。たぶん、大丈夫」
紗良はピットインのための分岐ポイントをそのまま通過。他チームがピット作業をしている間に抜き去りを挑んだ。
モバイルバッテリーを交換した他チームがローターの出力を全開にしてコースに戻ろうとしていた。紗良は、メグロスカイビークル、イエローバタフライを抜き去ったが、紗良の機体は桜島レーシングには届かなかった。しかし、順位は2位へ浮上した。
桜島レースと江戸前レーシングは同設計の機体である。あとはパイロットの腕と根性の勝負である。
再び江戸前レーシングのピットから交信が入った。
「お菊、気を付けろ。バッテリーは最後、急速に電圧が低下するからな。ぎりぎりにならないようにしろよ」
「リョーカイ」
紗良の答え方はどことなくDOKANの答え方のようであった。
各チームのブースの前をレース用ホバーバイクが唸り声を上げながら通過していった。
その時、江戸川レーシングのブースでは、紗良と交信をするゲンジの脇に、DOKANが移動してきて椅子に座った。
「あれ、DOKAN。なんで内股なんだ。お前は普段通り大股で歩けよ」
「足を怪我してるからです。いてて」
勝田は、まじまじとDOKANを見つめていた。
「どうしました?」
「なんで、お前がここにいるんだ?いま、レースに出ているのは誰なんだ」
「あ、言われてみれば、確かに・・・」
その時、千鳥ヶ淵で何かが落下する音が聞こえた。桜島と江戸前が1位争いを繰り広げるその後方で3位争いをしていたメグロスカイビークルとイエローバタフライがコーナリングに失敗。バリケードを突破して千鳥ヶ淵に落下したのだった。優勝争いは桜島と江戸前の2チームに絞られた。
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