第7話 お菓子雑誌を立ち読みする男
紗良はその日の帰りに神保町の三省堂本店に立ち寄っていた。ホバーバイクの情報を少しでも手に入れようと思ったからだ。
ホバーバイク書籍はちょうど自転車雑誌の横にある。そこに、月刊ロードレーサーの最新号がおいてあるのが見えた。紗良は何となく手に取ってめくり始めると、そこには過去インターハイの記事が特集になっていた。
「3年前の菊池紗良のインターハイの記録はいまだに破られていない。インターハイ優勝の美少女。いまはいったいどこに?」
写真は高校生の時代のものだから幼いから少女なのかも知れない。でも、『美少女』って何?そんな書き方されると逆にわざとらしいじゃないか。しかも、いまさらインターハイの記事だなんて・・・。紗良がそっとフロアから立ち去ろうとすると、エスカレーターを登ってくる係長の姿が見えた。係長は几帳面な性格だ。どのカーブも直角の角度になるようにカクカクと曲がりながら紗良のところに向かってきた。
「あ、しまった」
これでは係長にばれる可能性がある。ここにある月刊ロードレーサーは5冊。全部、買えなくはない。でもお金がもったいない。とりあえず、隠そう。お菓子雑誌コーナーに隠そう。そこなら大丈夫なはずだ。
紗良は5冊の月刊ロードレーサーを、お菓子の雑誌コーナーに隠した。
しかし、係長はバイクのコーナーを通り過ぎ、そのお菓子のコーナーに直行していた。
「え、え、なんで??」
紗良は困惑した。しかし、係長はお菓子コーナーで雑誌を立ち読みし始めた。
手にした雑誌の表紙にはマドレーヌ特集とあった。
「ふんふんふーん」
鼻歌まで歌っている。
係長は周囲をきょろきょろ見ると、1ページだけスマホに撮影して去っていった。
何とかばれずに済んだ。しかし、なぜ係長がお菓子雑誌など読んでいたのだろうか?
次の日、ミーティングの席上にはフルーツ入りのマドレーヌが用意されていた。
「ああ、とても、おいしそうですね。これ、ひょっとして手作りなんですか?」
これは、ひっとして係長の・・・。そう思うと紗良のしゃべり方は、いつもよりもわざとらしくなっていた。
「そうなんです。よくわかりましたね」
係長は意気揚々としていた。
しかし、係長は何個ものマドレーヌを一気にむさぼるDOKANを気にしていた。
「DOKAN君、食べる前に手を洗いましたか?」
「ボクスカー」
「君に話してるの。ぼくすかーじゃないでしょ。君しか、DOKANって人いないでしょう?」
「ちゃんと毎日、風呂入ってますよ」
「毎日って・・・」
係長は思った。昨日の風呂の話じゃないだろ。直前に手を洗ったかと聞いてるんだよ。こいつが有望な選手じゃなければ、もっときつく言うんですけど、仕方ないですね。まあ、私の作ったお菓子がおいしいなら、別にいいですけど。
来年度に開かれる都市型スポーツオリンピックの選手選考を兼ねたホバーバイク3種競技の日程が迫っていた。
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