第8話 コスモスの咲く空編⑤
ーー綺麗だね、コスモス。
ーーちょっと持って帰っちゃおうよ。たくさんあるんだから大丈夫だって。
そうやってわたくしはよく花を手折られていた。
確かにたくさん花は咲いている。
でも、手折られた花はもう種を残すことは出来ない。それが悲しかった。
ーー綺麗だね。
また、手折られると思って身構えたわたくしに笑いかけてくださったのがプロテア様だった。
ーーでも、傷だらけだ。
包帯を手にプロテア様は微笑んだ。
ーー痛いのは、辛いね。
そのときわたくしは涙を流して、気づいた。わたくしは“痛かった”んだと。
丁寧に包帯を巻いてくれて、わたくしはプロテア様の話を聞いた。旅をしていること、国が狙われていること、花姫たちを集めていること。クレマチスがわたくしのことを賞賛していたこと。
ーーわたくしの能力狙いで来たのですか?
ーー興味がないと言えば嘘になるけど、俺は綺麗な花を見に来たんだ。写生が趣味なんだよ。ここのコスモスは満開で空にも咲きそうだよね。
わたくしの横に座り、プロテア様はスケッチを始めた。
ーーあなたの描いた絵が、見てみたいです。
ーーいいよ。まぁ、プロみたいにうまくはないけどね。
涼しい秋風に吹かれながら、さらさらと絵は描かれていく。
ーーできたよ!
ーー綺麗……優しい色使いです。
ーー気に入った?
ーーはい!
ーーじゃあ、これあげるよ。
ーーせっかく描いたのにいいんですか?
ーーもちろん。また描けばいいからさ。興味あるなら他の絵も見てみる?
ーー見てみたいです!
それぞれの花姫との出会いを話しながら絵を見ていく。絵を楽しんでくれたのははじめてだとプロテア様は笑っていた。
ーーあなたは素敵な人ですね。花たちに愛されるのがわかります。
わたくしはドキドキしながらプロテア様に告げていた。わたくしも旅に連れて行ってくれませんか、と。
プロテア様の隣で描き続ける絵をみていたかった。
☆
「ーープロテア様、また絵を描いてくれませんか?眠りの絵ではなく、目覚めの絵を。わたくし、恐怖や悲しみで忘れてしまっていたんです。あなたの絵が大好きだってこと、を」
「いいね。俺も久しぶりに絵を描きたいな。何を描こうか?」
「みんなを描いてください。贅沢なシャンドフルールでしょう?」
「そうだね。贅沢な花畑だね」
「あなたにしか描けない、絵ですよ?」
ふわりとコスモスは笑い、腕を絡ませる。
「みんなのもとに帰ろうか、コスモス」
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