第5話 情熱的な愛〜ヒガンバナ編〜②

「……は、はぁ……樹姫のおかげで助かった…」

 危うくヒガンバナに殺されかけたグラジオラスはぐったりとしていた。だが、どういうわけかその光景はプロテアの目には映らないようになっていて、寒気がする花姫たちだった。


「……ヒガンバナ、お兄ちゃんに何か毒を盛ってる……?」

「あら、やっと気づいたのね。あなたが初めてだわ」


 皆が毒って言った!?と飛び上がるのは言うまでもない。


「ヒガンバナの特別配合。ヒガンバナの悪いところが見えなくなる不思議な不思議な毒……いや、お薬だよ」

「ヒガンバナの料理はおいしいなぁ」

「ふふ。プロテア様のために愛を込めてるんだよ」


 クレマチスでさえ、そのふたりから目を背けている。


「そういえば、グラジオラス。お前の元夫がXの可能性はないか?」

「絶対ないわ!あり得ない。ねぇ、樹姫」

「うん。それはないね。パパ、ママにベタ惚れなんだよ。ね、お兄ちゃん?」

「あー、義兄さんはすごいよ、ベタ惚れだったんだから」

「ほう?」

「え、あたし聞きたいなー?」

「そ、そう?私が花屋の手伝いでパーティー会場に行ったときにあの人と出会ったんだけど、一目惚れだって私に熱烈アプローチしてきたのよ」

「あのときはしばらく毎日花屋の花が買い占められてなくなったよね」

「プレゼントがトラック単位で届いたわね」

「ん?もしかしなくてもめちゃくちゃ相手金持ちだったりする??」

「……かなりの金持ちだよね」

「俺たちとは住む世界が違ってたよね」

「私の家族も大切にするって、まぁ、いろいろすごかったよね」

「……たくさんおいしいものを食べさせてもらったよね」

「あれは花姫とか関係ないわよね……私がお友達からお願いしますって返事をしたら、すごい喜びようだったわ。あれが芝居なら人間不信になるわね」

「……お父さん、樹姫が生まれる前から凄かったんだね」

「……そんなに熱烈に愛されたら、揺らぐのちょっとわかるかも」

「私が笑うと私以上に笑ってくれたのよ。私が抱えてた転生もたぶん薄々気づいててね、直樹の護衛をつけてくれてたのよ」


 知らなかった事実にえ?と俺は声をあげた。


「……別れるときに全部を打ち明けたのよ。笑わずに真剣に聞いてくれたわ。君はすごいねって笑ってくれたのよ。全部が終わって、もし少しでも僕のことを覚えてくれているなら、友達でも良いからまた始めようと言ってくれたのよ」

「くーっ、いいなぁ、愛されてるなぁ、グラジオラス」

「私を待たなくていいよって言ったんだけどね、ずっと待つよって。生まれ変わっても待ってるよって」

「愛、だな。樹姫をよく手放してくれたものだな」

「樹姫が私を選んだからね。めちゃくちゃ泣いてた。でも、樹姫の誕生日は一緒に過ごす約束をしているのよ?」


 思い返す義兄さんはとてもカッコよくて優しくて良い人だった。


「……その人ってどんな見た目をしてるの?」


 ヒガンバナがぽつりと呟く。


「えとね、黒髪でね、長身でね、モデルみたいにスリムでね、イケメンだよ」

「……こんな感じ?」

「そうそう、こんな感じだよ……って、えぇっ!?」


 そこにいたのは件の義兄だった。


「ーーみつけた、菖蒲、樹姫」


 幸せそうに彼はふたりを抱き締めた。


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