「忍者と魔物が織りなす異空間バトル、といってもこれはホラー。不気味さ満載の時空が割れるホラーなんですよ~」

@aaapun

第1話 凶の字を刷り込まれた二人の忍者

藤林京太郎と百地今日子はその名に凶を刷り込まれた忍者の末裔である。二人は花魔メゾンという異常に安い賃料のマンションでルームシェアをする。そのマンションには人肉を食らい、悪夢をみせる魔物が住んでいた。二人の力では勝てない。そこに服部恭美が加わる。伊賀上忍御三家の凶の字が揃い、手首に現れた印を合体させて3分間タイムリミットの能力を手に入れ、魔物との戦いに挑むホラー小説。

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抜けるような青空に白い綿雲がぽつりぽつりと浮いている。その遥か下に小さな公園がある。芝がところどころ剥げ落ちており、古い遊具が一つぽつりと申し訳ていどに置かれている。公園からは細い下り道が続き、その周辺を古い木造家屋が埋め尽くし、それが公園の横にまで浸食してきている。


百地今日子ももちきょうこは道端に立ち、公園を見下ろしていた。公園には4人の男性がいた。一人の男性がこちらに顔を向けて立っている。


彼を見た時、今日子の胸が鳴った。

なぜなのか、理由は分からない。


胸の鼓動が電流のように波打って脳天を響かせた。それはある因果が関係しているのだが、その理由はすぐに判明するのだが、この時点では分からない。


飄々とした面長な青年だった。もちろん、ルックスに反応したのではない。根っこはもっと深いところにある。なんといっても、今日子は百地家の出だから、そのような軽薄な感情など起こるはずがない。そのように厳しくしつけられているのだから、ルッキズムに心が浸食されることはない。


青年の歳のころは20代前半に見える。その前に三人の男たちが背を向けて立っている。背中の柔らかい線からみて高校生かもしれない。


4人は雑談をしている風にはみえなかった。1対3で対峙しているような雰囲気をかもし出していた。


「恐喝ね」今日子はそう確信した。そして、公園に降りる小さな階段に足をかけ、トントントンと降りて近づいた。


今日子はモスグリーンのカーゴパンツをはいている。いつもカーゴパンツを愛用している。理由はポケットがたくさんついているからだ。そして、ポケットにはすぐに取り出せるようにと無造作にコインを入れている。


三人組の一人が青年の胸倉をつかんだ。


今日子は静かに言った。

「やめなさい」


男の一人が振り返り、(はっ?なに?若い女性?しかも細身?)というような少し驚いた顔を見せながら言った。「うるせぇな、消えな」


しかし、男が言い終わるか終わらないかの間に今日子のバックスピンキックが男の側頭部を襲った。


「あ」小さく叫び、頭を抱えながら男は横に吹っ飛びゴロゴロ転がって大の字になった。


同時に青年のこぶしがコンパクトなスピードで胸倉をつかんでいた男の顔面を襲った。


彼の右こぶしは中指が折り曲げられ、親指が立てられていた。そして、少し飛び出た中指でフック気味に男の鼻を殴り、返す刀で親指が男の右目をえぐっていた。


ただの殴り方ではない。この技は吐龍拳とりゅうけんの一つだ。


「うわ」と顔を抑えた男に青年はトラースキックをお見舞いした。

男は物も言わず吹っ飛んで大の字になった。


青年は驚いて逃げ出そうとするもう一人の男の右手をつかんで引き寄せた。

それを見た今日子はコインを取り出して指ではじいた。

指弾だ。


コインは勢いよく飛び出し、逃げ出そうとした男の額に命中した。


「うぉっ」男がよろめいて動きを止めたとき、京太郎は、首の根元にオカダ・カズチカ張りのレインメーカー、つまりラリアットをたたき込んだ。男も大の字になって転がった。


青年と今日子はちらっと目を交わして軽く微笑みながら、並んで小さな階段をあがって道に戻り、並びながら歩いた。


「バックスピンキックを決めるなんて運動神経がいいんだね、それに指弾を使えるとはただものじゃないね」


今日子は黙って笑っていた。

「あなたのラリアットも威力があったわ」


「腕にレガースをはめてるからね」と言いながら京太郎は腕をポンポンと叩いた。


「僕の名は藤林京太郎ふじばやしきょうたろう。社会人1年生だ」



「私は百地今日子。大学生よ」


二人の足が止まった。(百地?今日子?そのきょうはくるっている狂なのか?それともまがまがしい凶なのか?)。


今日子も同じことを考えていた。(藤林ですって。そして京太郎。そのきょうはくるっている狂なの?それともまがまがしい凶の方なのかしら?)。


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