祠に吹く珠の風

十六夜 水明

祠壊し

 吐き気がした。

 意図して壊そうだなんて考えてなかった。

 山の中で何かに追われた気がした。逃げている最中、足を滑らせて落ちた先にそれが在ったのだ。

 これは事故だ。単なる事故だ。

 そう思っても、罰当たりな事をした自覚があり頭痛がしてくる。

 上土かみど 蒼汰そうた、16歳。祠を壊した。小さな小さな石造りの祠だった。

「ッ?!」

 気配を感じ、反射的に振り返った。が、何もいない。恐る恐る、元・祠であった石片が転がっている方へと振り向くと何か黒い影が立っていた。

「ッうわぁ────!!」

 目が合った。いや、目はなかった。真っ黒な影だった。

 何も考えられなかった。

 ただでさえ祠を壊してしまった直後だ。気が動転していたせいで、ろくに物を考えられなかったのだ。

 途中、転びそうになりながらも、どうにかして自宅へと走った。


 その夜、奇妙な夢を見た。

 蒼汰自身の体は全く動かない。立ったまま金縛りにでもあったような心地がした。辺りは暗闇で蒼汰の目の前には和服を着た、おそらく男性だと思われる人物が立っていた。顔は、よく分からなかった。ただ、腰まである銀の髪と萌える若葉のような緑の瞳がが印象的だった。

「……」

「……」

 男は何も喋らない。

 蒼汰も声が出ない。

 互いが何も言わずにだだっ広い空間に突っ立っている。

『私はお前が壊した祠のあるじだ。明日あす、夜が明けたら来い。責任を取れ』

 何も喋っていないはずなのに、自然とそんな言葉が蒼汰の頭に流れ込んできた。訝しげに、蒼汰は男性を睨んでいると男の姿は霞のように消えていく。

 引き留めようとするが蒼汰の体は動かないし、声も出ない。

 そして男が消える事に比例するかのように蒼汰の意識もおぼろ気になっていった。

 

 翌朝、今までに感じたことがない寒気と不安に叩き起こされるように蒼汰は目を覚ました。

 とにかく、急いで祠へ向かわなければならない。夢でも、なんでも、とにかく呼ばれた気がしたのだ。そして、行かなければ何かとんでもないヤバい事が起こってしまう気がした。

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