お嬢様、フラグを折るのはお任せ下さい!
もくせい
プロローグ 誰が為に鐘は鳴る
楽しそうなリズムを刻む鈴。赤と緑の過剰な装飾。この季節と言えばコレ!と言わんばかりに漂ってくる揚げたてのチキンの香り。
今年は土日だからか、日が落ちても街中はあちこちクリスマスムードで、人も多い。
家族連れ、カップル。縁のない集団の合間をすり抜けて、俺・
クリスマスにブッシュドノエルを食べるのは、我が家では伝統行事だけど、今年のは一味違う。
今年は姉ちゃんへのサプライズとしてメッセージプレートをつけてもらうのと、姉ちゃんが大好きないちごをたくさん入れてもらった特別仕様にしてもらっている。来年結婚する姉へのちっぽけな孝行だ。
姉ちゃん、喜んでくれるといいけど。いや、喜んでくれるとは思うが、滅茶苦茶泣かれたらどうしよう。いやだな、泣くのは結婚式まで取っておきたいんだけどな。
なんて考えているうちに、目的のケーキ屋が見えてきた。
タイミングよく横断歩道も青信号だし、これなら確実だな。
思わず浮かれたクリスマスソングを鼻歌で奏でながら、横断歩道を踏み出した時だった。
腹の底に響くような重みのある音が響いた。
ギョッとして辺りを見回すも、音の根源っぽいものは何も見つからない。
これ、鐘の音、か……? すっげえ鳴り続けてる。さっきまで聞こえてたクリスマスソングも人の声も何も聞こえない。それほどデカい音なのに、俺以外の通行人は誰も気に留めてない。
「――……い。おねがい、気づいて……」
突如鐘の音の中で、誰かの声が響いた。か細くて、今にも消えてしまいそうな……女の子の声。
それが聞こえた途端、鐘の音はピタリと鳴り止み――代わりに激しいクラクションの音とタイヤの擦れる音が俺の鼓膜を打った。
次の瞬間、俺の視界はぐるんと大きく回転し、暗い赤がべちゃりと覆い隠した。
それは、俺が成人したら一緒に飲もう、と姉ちゃんが数日前に買ってきてくれたワインのような赤だった。
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