第43話

 ディスペル――。それは、あらゆる魔法の効果を解除する魔法だ。



「ルカ、お得意の魔法だが、ずいぶんかかりが弱かったようだな!

油断したのはそっちのほうだな! それとも、あのやたらいい匂いの紅茶を飲んでたせいか?

ルカ、忘れたのか? 俺は教えたはずだぞ。

――敵の見てくれに騙されるな! と」



 一気に身体が自由になった俺は、お得意の早業で、瞬時にルカと身体を入れ替えていた。


 そして今、俺がルカにのしかかり、その喉元に短剣を突きつけている。




 ――良かったぁ。万が一のときのために、スカートの中に短剣忍ばせといてっ!!





「くっ、私としたことが、忘れていました……、あなたが、あの、ククリ様だ、ということを……」



 今度はルカが、身体の動きを俺に完全に封じられている。




「この格好のせいで、ずいぶん甘く見られてたみたいだな。ルカ、どうだ?

自分が教えた魔法に、してやられる気持ちは?」


 俺がぐっとルカの襟元を締め上げると、ルカは頬を紅潮させ、荒い息を吐いた。




「最っ高ですっ!! ククリ様っ!!!!」




「ハイ?」



 思わず面食らう俺。


 ルカはその瞳をトロンとさせて、俺を見た。



「ああっ、ククリ様が私を押し倒してくださるなんてっ!!

このアングルからのククリ様っ、初めてククリ様に私が負かされた時と全く同じです!

ああー、ククリ様、尊いっ! 愛してますっ!! 結婚してくださいっ!!」



「断る!!」




 ――こいつ、さっき飲んでた媚薬とやらのせいで、頭がぶっ飛んでしまったのか!?



 さらに締め上げてやろうと身体を動かしたところで、ゴリッと固いものが俺の膝に当たった。



「!!!!」



 こいつ、勃ってる……!


 媚薬のせいもあるかもしれないが、たぶん……、それだけじゃない!



 前世のセクハラ被害を思い出し、思わず身を強張らせる俺。



「ククリ様っ、私は、貴方になら何をされても構いません。

痛くされても、ひどくされても大丈夫です……!

だから……、どうか私を、このままメチャクチャにしてくださいっ!!」


 うっとりと目を閉じるルカ……。




「ヒッ……!」


 まるでずっと片想いしていたちょいワルイケメン相手にバージンを捨てるときの、純情可憐乙女みたいな言葉に、思わず俺はのけぞっていた。



 ――こいつ、ヤバい……。



 ルカ・レオンスカヤ……。


 冷静沈着で、眉目秀麗な魔法の天才だと思っていたが……。



 一皮むけば……、


 俺への恋心をこじらせた、ただの変態男……。





「ルカ、お前なっ!」


 俺がさらにルカの襟元を締め上げ、俺自身にぐっと近づけたその時……、




「ククリっ!!」


 大きな物音がして、部屋の扉がバンと開いた。



 俺が振り向くと……、




「アスランっ!!」



 騎士団の制服を着て、剣を片手にしたアスランが、そこに立っていた。





「ククリっ!!!!」



「アスラン、ちょうどよかった! ちょっと手伝っ……」



「!!!!」

 



 だが、アスランは、寝台の上の俺とルカを見ると、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。




「アスランっ!!??」




「くっ……、覚悟はしていたはずなのに……、

こうやって現実を目の当たりにすると……、ショックが強すぎて到底立ち直れそうにない……、

つらすぎる……、死にたい……」



 アスランは両膝と両手を床についた姿勢で、がっくりとうなだれている。アスランの紫がかった黒髪が、さらさらと揺れているのが俺から見えた。





「はあっ? ちょっと、何言ってるの? アスラン、ちょっと、早くっ!」





 アスランは、ゆっくりと顔をあげた。



 その目はなぜか、涙で滲んでいた……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る