第26話

「ククリ様、わかったでしょう?

貴方は一刻も早く、アスランと離婚したほうがいい。

アスランは、とても危険な男です」


 ルカがその美しい色合いの瞳で、俺を見る。



「でも、こんなの……、だって、決定的なことは、何も……」



 だが、ここまで明白なものを見せられたというのに、俺はまだアスランのことを信じたいという気持ちが強かった。




「ククリ様! そんな悠長なことを言っている場合ですか?

これを読んで、まだわからないのですか!?

アスランは、貴方を、傷つけようとしているのですよ!

アナスタシアという女と、共謀して!!」




「傷、つける……?」


 あの二人が、俺を……?




「その様子では、貴方が20歳を迎えたらどんなことが起こるのか、まだ何もご存知がないようですね?」


 ルカは、ふうっと息を吐いた。



「20歳の誕生日……?」


 ーーたしかお母様も言っていた。20歳の誕生日までに、俺はアスランと離婚するべきだって……!!




「王命が下っているのですよ! アスランはもちろん貴方に告げてなどいないのでしょうね!

もともと我が国には、国王の直系の孫娘と婚姻した騎士には、その孫娘が20歳の誕生日を迎えたその日に、新たな騎士団を発足させる権利と、新たな領地が与えられる事になっていました。陛下は、騎士であるアスランと結婚されたククリ様にも、その法を適応されることを発表されたのです。

つまりは……」



 ルカの瞳がキラリと光る。



「こういうことですよ、ククリ様!

ククリ様が20歳の誕生日を迎えたその時、アスランは自らを団長とする新たな騎士団を作り、また己が自治する新たな領地を得る。

その後、ククリ様を誰にも知られず亡き者にするか、監禁するかして、ククリ様を完全に世間から隠し、

もう誰にも干渉されない富と権力を得たアスラン自身は、そのアナスタシアという女と新たな生活を始める!

ーーこれが、この日記から読み解けるアスランの計画です!!」




「……!!!!」



 俺は、ショックのあまり、しばらく口がきけなかった。



 ーーアスランは、そんな恐ろしいことを考えていたのか!?




「これでわかったでしょう、ククリ様!

さ、ご自身のためにも、すぐにでもアスランと離縁の手続きをっ!!」



「……なければ……」



「はい?」




 ルカが心配そうに俺の顔を覗き込む。


 俺はぐっと両の拳を握りしめた。





「俺が話をつけなければっ、今すぐっ、あの、アナスタシアとっ!!!!」



「は!!??」



 ルカが一瞬脱力した表情になる。





「俺がアナと話し合う! 何よりそれが先だっ!!」



「ク、ククリ様っ、早まってはいけません! そんなことをしたら、ククリ様が一体どんな危険な目に遭うか!

どうか、私にお任せください、もし必要とあらば、全て私が……」



「大丈夫だっ、ルカ!」


 慌てた様子のルカの背中を、俺はバシっと叩いた。




「アナのことは、俺が一番よくわかっている。なに、俺たちは、過去にちょっとした行き違いがあっただけなんだ。

それに、もし本当に二人が愛し合ってるっていうんなら、俺はきっぱり身を引いて、二人を応援するつもりだよ!」



 そうすれば、俺も監禁されたり、殺されたりなんて目にも遭わなくてすむ……ハズだ!!


 ーーまあ、今更ちょっと無理かもしれないけど。



 とにかくこの事実を知ってしまった今、このまま家でのんびりと待っているなんて、俺にはできない!




「無謀すぎます! ククリ様、あなたはアスランの恐ろしさをまるでわかっていない!

あの男は、蛇のように陰湿で狡猾で、抜け目のない男ですよ!」


 ルカの言葉に、俺は首を振る。

 


「俺はアスランのことは何もわかっていなかったかもしれないけど、アナのことは違う!

あいつは俺の元・親友だ! 誰よりも侠気あふれるやつなんだ。

だからっ……!」




「それなら、私も、一緒に……っ」



 俺の手を取ったルカ。


 だが、その手を俺はやんわりと外した。




「心配するな、ルカ! これでも俺は、一時はお前のボスだった男だぞ。

それにアナスタシアも、俺だけのほうが本当のことを言ってくれると思う!」





 俺は、大きく深呼吸した。





 ーーついに、このときが来たのだ……。




 アナスタシア・ウィッテと俺との、因縁の決着をつける日が……!!



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