第25話

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 XX月XX日



 もう限界だ!!


 俺は一体いつまで自分を偽り続ければいいのか!?


 何も知らないククリの顔を毎朝見るたび、どうしようもない罪悪感に苛まれる日々。


 こんな最悪な朝を、俺は一体あと何回迎えなければならないのか!?

 


 本当にこんな日々に終りが来るというのか?


 でも、結局何もかもうまく行かなかったら?


 いや、そんなことを考えるのはよそう。



 ああ、早くアナスタシアに会いたい!


 今すぐにでも彼女に話を聞いてもらいたい!


 今、彼女といるときだけが、本当の自分に戻れる気がする。


 アナスタシアと会えるまであと2週間……、待てない!!


 俺は、このままでは……。




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 XX月XX日



 アナスタシアにもう少しだと、励ましてもらえた。


 俺はよく耐えている、頑張っている、と……。



 だが、俺は本当にできるのか?


 絶対にククリを傷つけることになるとわかっているのに……。



 ククリの怯えた顔に、俺はひるむことなく、行動を起こすことができるのだろうか?


 意気地のない自分に、腹が立って仕方がない。


 でもこれが、二人の幸せに繋がると信じて……!



 ククリの20歳の誕生日まであと少し。


 早くその日を迎えて、全てから開放されたいと願う一方で、ククリのためにはこのまま、この生活を続けたほうがいいのではないかと思う自分もいる。


 ククリを大切に思っている……。傷つけたくなど、ない。


 微笑みの裏で、俺がこんなに醜い感情を抱えているとククリが知ったら、一体どう思うだろう?



 ーー俺は最低な男だ。


 どんな綺麗事を言っても、結局は、自分の欲望を、最優先させようとしているのだから……。


 今の俺を見たら、アナスタシアはどんな顔をするだろう?

 どんな言葉をかけてくれるだろう?


 ああ、またアナスタシアに会いたくなってしまった……。






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「……っ!!」




 俺は全身を、稲妻に打たれたような衝撃に貫かれていた……。





 アスランの日記に綴られていたのは……、



 隠しきれないアナスタシアへの恋慕の情、そして……、



 ーー伴侶である俺への懺悔……。




「ククリ様っ、大丈夫ですか!?」



 思わずふらついた俺の身体を、かたわらのルカが支えた。





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 あれから俺たちは、ルカの転移魔法で自宅に戻った。


 主人の部屋に無断で入ることは絶対にできないというネリーを残し、俺とルカは、ルカの解除魔法で結界を解かれたアスランの部屋に足を踏み入れたのだった。


 俺だって、いくら自分の夫であるとはいえ、結界まで張ってあるプライベートな部屋に入るのには抵抗があった。


 だが、今ここで真実を見ておかなければ絶対に後悔する、と主張するルカに、俺は結局折れた。




 そして……、


 アスランの部屋は、俺が想像していたものと全く違っていた……。




 部屋は整然と片付けられていはいたが、ドアのすぐ右手の壁一面が……、


 ーーボコボコに歪んでいた。




 それを見た俺は、思わず小さな声をあげた。



「ククリ様はアスランのことを、感情の起伏のあまりない穏やかな人間だと思っているでしょう?

でもこの壁を見れば……、アスランがどれほど激情的な人間かということがよくわかりますね」



 淡々とルカが告げる。



「……」



 この壁を、アスランが殴っていたのか!? 夜中に? 湧き上がる激しい怒りを抑えきれずに!?




 激しい壁の損傷に、驚いた様子もないルカ。

 ルカはきっと、そんな激情に駆られたアスランのことも、よく知っているのだろう。




「アスランは日記をつけているはずです。おそらく、秘めた思いをどこかに吐き出さなければ、日々を正常に過ごすことができなかったのでしょう」



「アスランは、それほどまで……」



 戸惑う俺を気にするでもなく、ルカはそのアスランの日記を探し始めた。





 ーーそして、日記は……、


 結界で閉ざされた部屋の中の、さらに結界をめぐらされた戸棚の奥に隠されていた……。





「でもルカっ、やっぱり良くないよ! 人の日記を見るなんてっ!!」



 俺の制止も聞かず、結界を解いたルカは、日記をパラパラとめくり始める。




「ルカっ、もういいよ! そんなこと、俺は知らなくていい! いいから、やめて!!」



「どうかお静かに! アスランに知られたらどうするのです!?

ことは慎重を要するのです。私の結界の解除魔法にも、限度というものがあります!」





 しばらくページをめくり、読み続けていたルカは、ある場所を開いたままにして、俺にその日記を見せてきたのだ。







「ククリ様、読んでください。これが、アスランの真意です!」



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