第3話
「で、アスランは……?」
その名前を出した途端、俺の胸のあたりがすーっと冷えていくのを感じた。
そう、俺はこの目で見たのだ。
俺の夫と、俺の幼馴染の浮気現場を!!!!
「その……、旦那様はかなり離れたところにいらっしゃったので、ククリ様が溺れたことには結局お気づきにならず……。
ルカ様も、このことはしばらく誰にも黙っておいたほうがいい、とおっしゃったので、濡れたククリ様をルカ様がご自身のマントにくるんで、誰にも見つからずにここまで運んでくださったのです」
ネリーは気まずそうに俺を見る。
「そう、なんだ…‥」
たしかに、あのまま怒りに身を任せて二人を責めたてたところで、ろくな結果にはならなかっただろう。
口の上手いアスランのことだ。下手をしたらいいように言いくるめられてしまっていたかもしれない。
それに、届いた密告の手紙を鵜呑みにして、ネリーと二人でのこのこと湖に出向いて行ったことを説明するのもなんだか気が引ける……。
――たとえ、その結果が真っ黒だったとしても!!
それにそれに……、もし俺の両親にこのことが知られでもしたら……、それこそ大惨事だ!!
――とにかく落ち着いて状況を整理しよう!
俺はネリーに手鏡を取ってもらい、改めて自分の姿をじっくりと確認した。
顏に全く似合っていないちぐはぐな化粧。ハシバミ色の瞳の周りのアイラインはすっかりよれている。
朝にネリーがセットしてくれた砂色の髪は、水に濡れてすっかり縦ロールが崩れ、ぐしゃぐしゃになっている。
着せられているのは、クリーム色の美しい光沢のあるネグリジェ。だが、どう見ても女物……。
――そして同時によみがえる、現世でのあれやこれやの今までの俺の恥ずかしい記憶……。
そう、前世を思い出した今、俺はようやく自覚したのだ!
俺がこれまで、今は俺の夫であるアスランにしてきた数々の愚行を!!!!
これ以上なく、はっきりと、明確に!!!!
「ククリ様、すぐにこのネリーが髪を巻き直しますわっ! それから、お化粧も……」
ネリーがブラシ片手に近づいてくる。
「……いい」
「へ?」
ネリーが目を丸くして固まる。
「もう髪は巻かない……」
「ええっ? いったいどうなされたのです? ああ、旦那様のことを気になさっているのですね!
大丈夫ですよ! 旦那様のあれは、一時の気の迷いというものです!
ほら、男っていうものは、一人の女……、じゃなくて一人の人間では飽き足らずに、あれこれ試したくなる生き物らしいですから!
でも本当に大切なのはククリ様おひとりに違いないんですからっ!!
もしかしたら、何かの間違いかもしれませんしね! あの性悪女に騙されているだけかもしれません!!
とにかく、こんな可愛らしいククリ様を旦那様が捨てたりなんて……」
必死になって俺を慰めようとしてくれるネリー。
ちなみに俺もアスランも同じ男なので、いろいろとあまり説得力がない……。
だが、もういいんだ。今や俺は前世を思い出し、そして思い知った。
――今までのすべては、俺の空回りだったということを!
「髪を切るっ! 話はそれからだっ!!」
俺は立ち上がる。
とにかく、これまでのことを謝らなければならない。
今すぐ、アスランに!!!!
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