第2話

 思い出したくもない、前世の嫌な記憶……。


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『はァ? したくないって、何ソレ? もしかしてお前、なんか身体でも悪いの?』


 口元を歪めて俺を蔑む男。


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『馬鹿にしてんの? ……あのさあ、そういうつもりがないんなら、最初っから誘わないでほしかったんだけど!!』


 あざ笑うような女の赤い唇。


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『要するに、それって、どっかおかしいんじゃないの?』




 ――うるさい。




 お前らに、俺の何がわかる!?





『そう、つまりは、異常なんだよ! あんたは!!』




 うるさい、うるさい、うるさい……!!



 みんな勝手なことばっかり、言いやがって!


 俺だって、俺だって、本当は……!!!!





『だって、お前は……、とどのつまりは……』





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「だああ、もうっ、うるさーーーーいっ!!!!」



 叫びながらガバっと起き上がった俺。





「ククリ様っ!」


 目の前に飛び込んできたのは、暗褐色の瞳と、それと同じ色の髪をおさげにした素朴な顔の女の子。



「あ、ネリー……」



「よかったあ! ククリ様っ!! ずっとうなされていたんですよっ!

私心配で、心配で……っ、ぐすっ」




 目に涙をためて鼻をすすり上げるのは、そう、俺のメイドのネリー!!


 俺より一つ年上のこのネリーは、幼少のころからずっと、俺の良き話し相手であり、今では俺の最大の理解者でもある。




「ごめん、心配かけて……、えーっと、俺、いま……」



 俺はきょろきょろとあたりを見回し、自分の置かれた状況を確かめる。




 えげつないほどのラブリーな花柄の壁紙、無駄にフリルやレースの装飾が多すぎる内装。


 丸テーブルや鏡台といった家具は、すべて白で金の縁取りがされている。



 そして、俺のいる天蓋付きベッドは、花嫁のベールみたいな綺麗なキラキラした布で周りを覆われていた。


 ありえないほどの少女趣味……。



 ――うん、恐ろしいことに、現世での俺の部屋に間違いない。




「ちょうど通りかかったルカ・レオンスカヤ様が助けてくださったんです!

ルカ様がいなかったら、今頃どうなっていたことか!!」


 ネリーはそう言うと、何かを思い出したかのようにぶるっと身を震わせた。



「ルカ・レオンスカヤ……」


 もちろん、その名前は知っている。


 夫であるアスランの同僚で、今二人は魔法騎士団でバディを組んでいるらしい。



 ――あんなところに、ルカまでいたのか!?




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