明後日の約束

最近めっきり寒くなり、温かい飲み物を買おうとして自販機に行くと真っ青な顔を深島がいた。


「深島?どうしたのその顔」


「別に……」


特に何も言わず自販機横のベンチで蹲るように丸くなりながら座っていた。


片手でホッカイロを腹部に当てているのを見て

あれか、と察した。


確かに男に言い難いことかもしれない。


「身体冷やしたら良くないし中入れば?」


と声かけても無反応で流石に心配になる。


自分の目的のホットココアを押し、

その後再び小銭を入れ、ホットルイボスティーを押した。


「はい、あげる」


ルイボスティーを差し出すとそれをちらりと見て

要らないとか細い声が返ってきた。


「身体冷やすのはやっぱ良くないよ。

ノンカフェインだから酷くなることは恐らくないと思うし。


本当に要らなくてもルイボスティー飲めないから買っちゃったし貰って」


本当は飲めるけど強情な深島はここまで言わないと絶対に折れないと知っているから

我ながら狡い言い分だなと思った。


痛みなのか屈辱なのか分からないが歪んだ顔で渋々受け取るのを見て

お大事に、と一言添えてその場を後にした。


変に気遣ってあれをするか、これをするかと周りうろちょろしても邪魔なだけだろう。


実際愛香ちゃんも美優ちゃんも酷い方だから

最初こそなにかしてあげなきゃかなと思ったけど


最終的に美優ちゃんに何もしなくていいから!気が散る!とキレられたことがある。


その経験が生きてて良かった。


教室へと向かうと既に望も鈴森さんもいてその席に近づいた。


「おはよ。今日寒くない?温かいココア買っちゃった」


「一気に冷え込みましたもんね」


「確かに最近寒くなったよな」


「そう思うなら半袖もうやめなよ…」


と雑談しながらココアを飲むと濃厚な甘さが口に広がり、ゆっくり喉を通り過ぎた。







授業終わり、すっかり冷えきったココアの一口を飲みきり移動しようとした時、声をかけられた。


声のする方を見ると

薬を飲んで少し回復したのだろう、顔色が良くなった深島がいた。


「体調大丈夫?」


「うん。それで七咲に用があって…」


と言いながら

一瞬鈴森さんをちらりと見たがすぐ目線を戻した。


「明日か明後日暇?」


「明日はバイトがあるけど明後日なら…」


「じゃあ明後日。

一緒に出かけて欲しいんだけど」


え、と声が出た。


それを聞き、傍にいた鈴森さんも固まったが


そんなこと知ったことかと言うように

あれよあれよと連絡先を交換してすぐに居なくなった。


「七咲さん……やっぱり……」


「違う!本当に深島の元彼と取り合いもしてないし、付き合ってもないし、何も無い!」


「…わ、私だって!私だって負けませんから!」


「いや、本当に何も無いから負けるとかもないし!」


深島藍が何を考えて僕に誘ってきたのか分からないが明後日何があるのかと思いながら

鈴森さんを宥めた。

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