The third persons

黒木ココ

The third persons

これはH県T市某地区の山中に残されたある映像データである。撮影したのはとあるyoutuber二人組であるが、この二人は撮影以後現在も消息不明である。


「はいどうもー、『祠壊し隊』ルオでーす」

「こんちは~、同じくナイオでぇっす」


 (画面には二人の若い男が映っている。恐らく二十代から三十代であろう。服装は二人共にジャージのような軽装。片方は背が低く小太りの男でルオと名乗り、もう片方の長身で細身の男はナイオと名乗っている。二人とも『祠壊し隊』と書かれた腕章をつけている。どこかの深夜の山中だろうか。画面後方には古びた鳥居の様な物が映っている)


「はいっ、今日はなんとなんとなんとぉ……東京からはるばる関西の某所までやってきちゃっております。いや~、東名高速使って10時間くらいかかっちゃうんで、もう途中からめっちゃ眠くなっちゃいましたよ。ねぇ」

「そうっすね。これだけ長旅になると思ってなかったっすもん、つか? 運転はずっと俺でルオ君はぐーすか寝てるし?」

「あー、その事はまぁおいてといて」

「いや、そこおいとかないですやん。めっちゃひどいですわ」

「あーもう分かった分かった。というわけで、訪れたこの関西の某市は関西の奥多摩とも言われてるそうっす。自然溢れるいいところじゃないですか。こんなにも田舎なのに大阪市内からは車で二時間程度のアクセスの良さでベッドタウンとしての需要も高いんですって。特産品は黒豆、聞いたことぐらいはあるでしょ。今10月だしちょうど黒豆が旬な時期なんだそうです。はい」

「ちょっとちょっとルオ君、俺らご当地紹介系チャンネルとちゃうよね。俺たち心霊系チャンネルやしね。ジャンルずれてきてるよ~、あっ、こんちわーす!」

「こんちゃーす!」


(突然二人は手を振りながらカメラの視線から逸れ、あらぬ方向に向かって挨拶をした。当然深夜の山中に二人以外の人影はない)


「この街、実はむかぁーし有名な怪談があったんだそうです。ナイオ君、『山の牧場』って知ってる?」

「ああ、アレね。40年ぐらい前にとある大学サークルのメンバーが不思議な場所に迷い込んだとかいう――つかここってその舞台だっけ? 俺の聞いた話だと隣のA市W町だって言ってた気が……」

「まぁネットに流れてるような噂じゃいくらでも情報がごっちゃになってんだろうしこだわんなくていいでしょ。A市もT市も似たようなもんでしょ」

「そんなこと言ったら地元の方に怒られるでしょ、ルオ君」

「まぁまぁそれはおいときつつ、今回は特にその『山の牧場』とは関係ないんだけど。視聴者のリクエストでT市の山ん中にあるボロっちい祠を壊してほしいって依頼を受けたんで来たって訳よ。僕たち『祠壊し隊』も今回でついについに9個目の祠の破壊となります。いや~、めざす10個目まであとちょっとですね~!」

「ぱちぱち~! ルオ君おめでとうございます!」

「ありがと~ナイオくーん!」

「まさかここまで来るとは思いませんでしたよね~、もうこの企画やって大分たつし」

「ホントにホントにね。やーっと9個だよ、9個」

「いや~、でも今までやってきた祠、なんも起きませんでしたからね~」

「あったりまえじゃん。起きたら僕たち二人ともここにいませんし」

「ですよね~っ、まぁルオ君も僕も心霊とか全然信じないタイプじゃないですか~」

「てかさてかさ、ナイオ君も最初は心配そうに『祠壊していいんかな』とか言っといて最近はノリノリだもんな。そういえば、この間壊した8つ目の祠でさ……」


(数分ほど、ルオとナイオは雑談を交わした)


「とまあ早速やっいまいましょう。ナイオ君、カメラOK?」

「OK~OK~!」

 

(しかしナイオがカメラを回している様子はない。ルオとナイオは気にすることもなく古びた鳥居をくぐり、二人の後を追うようにカメラもついていく。すると小さな古い祠のような建造物が画面中央に見えるようになった)


「おおっ、これこれ思ってたよりボロボロの祠~! これが今夜お亡くなりになる祠ですね~」


(祠は木製だが雨風にさらされているためか腐っている部分が多数ある)


「ええと、依頼者さんのお話だとここの祠は――(音声にノイズが走り言葉が聞き取れない)が祀ってあって、夜にここで肝試しをする若者が増えたのが悩みだからいっそのこと壊してほしいという事らしいよ。僕たち、無断で壊しているわけじゃないんで安心して下さい」

「そう! ちゃんと許可をとった上で行っているんで安心です。あっこんばんわー」

「こんばんわー」


(再び二人がカメラの視界外へあいさつをした)


「じゃーん、これまで8個の祠を壊してきた我が伝説のハンマーです! 今夜も大活躍して貰いますんでね!」


(ルオが大型のスレッジハンマーを掲げる)


「いやー、ルオ君かっこいいー! あれって何キロあるの?」

「10キロ近くあるからねー、これ持つのって大変なんだから。じゃ、一思いにやりますかっ。カメラおけーいナイオくーん」

「OKす~」

「はーーい、それじゃ皆様お待ちかね、今夜もこのボロい祠をぶっ壊しまーす! そーれっ」


(ルオは軽い掛け声を出しつつハンマーを振り上げる。しかし、そこでルオの動きが止まる。ナイオも動かなくなる。静止画が挿入されているように見えるが周りの木々が揺れていることからカメラは回っている)


(カメラは静止した二人を捉えながら、数分の時間が過ぎている。そのまま5分22秒が過ぎたところで、閉ざされた祠の戸がわずかに開く。二人は固まったままでいる。開いた戸の隙間から黒い靄のようなものが漏れてくる。黒い靄は徐々に二人を包み込む。二人が静止してから8分31秒後、完全に二人を包み込んでいた黒い靄は祠に吸い込まれるように消滅し、戸が閉まる)


「はあい! ミッション完了~! いや~今回の祠もかなりの手応え! これだけボッコボコのグッチョングッチョンにするのって気持ちいいですよね~。ねえナイオ君」

「そうっすよね~。これ見たがっている視聴者さんが結構いらっしゃいますからねー」


 (気付けばルオの持っていたハンマーには赤茶色の汚れが付着している。ルオとナイオはそれに気が付くとハンマーの柄の部分に巻きつけられている白い布で拭い始めた)


「あー、これはやばいやばいやばい。返り血がすげぇ!」

「え? 返り血? あっ、ホントや、めっちゃ汚れてる! うわうわ、早くふかないと」

「祠くん出血大サービスです。はい!」

「じゃ、依頼達成したんで帰りましょか!」

「お疲れ様~! この動画を見ているみなさん、『祠壊し隊』のチャンネル登録してくれればこれから先もこういう祠破壊系の動画をどしどし上げて行くので、よろしければお願いしまーす」

「そうそう、あとSNSもやっていますんで、是非そちらのフォローよろしくです!」

「それでは次回も楽しみにしてね~!」

「ばいにゃら~!」


(ルオは祠の扉を開けて、中に身を潜り込ませる。続いてナイオも祠の中へと入ると扉が閉まる。カメラはその後3時間近く回り続けた後、バッテリー切れで停止し映像データは途切れている。その間不審な映像は記録されていない)


(この映像以降『祠壊し隊』は消息不明であり、警察は公開捜査に踏み切っている。当然祠の中も調べられたが古びた御神体が祀ってあるのみで、成人男性二人分が入れるほどの空間が内側に存在しないことが確認されている)


(警察はこの動画の撮影者が何らかの事情を知る可能性が高いとして情報提供を呼びかけている)



《END》

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