どうやら俺のラブコメは生配信されているらしい 〜美少女救ったらラブコメ始まったんだが、コメント欄がうるさくてかなわん〜

海夏世もみじ

第1話

 俺の名前は冴島さえじま奏多かなた。どこにでもいるような影の薄いぼっち高校一年生である。


 とは言っても、今日は高校生として初日の入学式なのでまだ皆と同じ土俵だ。だが、中学時代と同じように孤独な高校生活を送りそうな予感がする。

 まぁ他人には特に期待をしていないし、自分も期待されたくない。だから友達が作れなくてもいいのだ。


 一人くらいはバカを言い合える友人が欲しいけどなぁ……。


「はぁ、俺の高校生活はどうなることやら……」


 『春うらら』という言葉があるが、俺にはそんな良い気分が訪れていない。俺は春を楽しむことすらできない哀れな人間らしい。


 桜の花びらが舞い散る通学路を歩いていると、信号に捕まる。春の心地で思わず大欠伸をしてしまう。

 そんな時、後ろから俺と同じ高校の制服を着た人がやってくる。


「っ……」


 思わず息を飲むほどの美少女だった。

 ふわりとした銀色のセミロングな髪に、青葉のように綺麗な翡翠色の瞳をした可愛らしい妖精のような女子。三つの輪が連なっている金色のヘアピンもアクセントとなっていた。


 おそらくクラスでもヒエラルキーの頂点に立つような人だろうと推測し、俺が関わるべき人ではないと思い目をそらす。

 信号機が青になり束縛から解放され、その女子は歩き始めた。視界に入れていたらまた目が奪われそうな気がしたのでそっぽを向く。


「……ん? なんだあれ」


 奥の道路からトラックが走ってきていたが、尋常じゃないほどのスピードだった。よく見てみてると運転手は居眠りしており、こちらに気がついていない。

 そしてそのトラックは横断歩道を渡る女子に向かって一直線に走っている。


「やっばい!!」


 思わず駆け出す。

 思考が追い付いた頃にはトラックがすぐ側まで来ており、走馬灯が見えた。


 ――ドンッ!!


 トラックに跳ねられて異世界転生する。……という最悪な結果は免れ、その女子を間一髪で押し出して回避することができた。


(あー……後のこと考えてなかったぁ……)


 宙に浮いた俺は制御が効かず、頭から地面にダイブする。

 衝撃で意識が朧げになり、だんだんと頭から何かが……血が抜けて行く感覚がした。


「――! ――っ!!」


 俺が助けた美少女は俺を覗き込んで何かを言っているが、全て通り抜けて理解することができない。

 そしてそのまま、俺は意識を手放した。



 # # #



「…………ん?」


 目の前に広がるのは真っ白な空間、などではないただの病室だ。どうやら死んではいないらしくて胸をなで下ろす。

 自分の名前も家族も覚えているし、特段脳に異常は見られないだろうなと思っていたのだが……。


:あ、起きた

:グッドモーニーング!!

:知らない天井の気分はどうだ?

:よく彼女を助けてくれた

:お前の苦労をずっと見てたぞ

:中々かっこよかったよ〜

:入学式から大変やなw

:奏民かなたみ古参勢として誇らしいぜ……


「……は? ナニ、コレ」


 俺の目の前には、配信サイトなどにある〝コメント欄〟があり、現在進行形でコメントが打ち込まれて流れていたのだ。

 どこかにカメラがあるのかとも思い辺りを見渡したが、それらしきものはない。というか、このコメント欄は半透明のプレートのようなもので、俺を追尾してきている。


 VRゴーグルなどで似たようなことはできるだろうが、今の俺は何も装着していない。


「配信の見過ぎでとうとう頭がイかれたか……?」


:おん? なんかこっち見てね?

:俺たちが見られてる!?

:マ??

:え、ガチやん!

:頭を打った衝撃で見れるようになった説

:【速報】ワイら、見つかるww

:いぇーい、見ってるー?笑

:祭りじゃ祭り!


 俺がコメント欄をジッと見つめていると、それに気がついたのかコメント欄の流れが早くなった。

 とうとう頭が終わったと思ったが、感傷に浸ることを許さないかのように上質の扉が開かれる。


「あ! 起きてる!!」

「うぉっ!?」

「うわぁああん! 助けてくれてあ゛いがとうございます〜〜!!」


 いきなり俺に抱きついてぐちゃぐちゃな顔面で涙を流す人物の正体は、トラックから助けたあの時の美少女であった。

 突然のことで何が何だかわからないが、抱きつかれてとても柔らかいモノが当たっているのは確かだ。


:羨まけしからん

:ジーーッ(●REC)

:抱けっ! 抱……抱かれたーーッ!?

:ぅゎっょぃ

:奏多くんのHPはもうゼロよっ!!


「え、っと……。一旦離れてもらうと助かるんだが……」

「はっ! そうですよね、ごめんなさい!! でも、本当に助かってよかったですぅ……!!」

「まぁ、それはお互い様ということで……。そっちも怪我がないようで何よりだ」


 見れば見るほど美少女だ。

 ラブコメ主人公にでもなった気分だが、調子に乗ってはならない。俺にそんな大役が務まると思えないしな。


「えーっと……?」

「あ! 私、朝凪あさなぎ萌羽もえはって言います! 都会に憧れて田舎から出てきました!」

「あー……冴島奏多、です」

「あの、怪我な方は大丈夫そうですか……?」


 特に面白みのない自己紹介をした。

 対して美少女……もとい朝凪さんは俺の心配をしてくれている。全然大丈夫、と言いたいところだが、大丈夫じゃなさそうな部分があるので聞いてみることに。


「多分大丈夫だぞ。けど……あの、コレ見えてるか?」

「えっ、何ですか? 空中に指をさして……。はっ、もしや都会にしかない謎技術ですか!? ふぉーー! すごいです!!」

「あぁ、こりゃ見えてないな」


 コメント欄はやっぱり俺にしか見えていないらしい。俺の頭がおかしくなったと理解したが、コメント欄はそれを許していなさそうだった。


:貴様! 信じていないなッ!?

:まぁそりゃそうだろがい

:でぇじょぶだ、頭はおかしくなってねぇ

:信じてもらえなさそうだがどうする?

:やるかぁ……

:おk! 任せた!!

:↑他力本願寺がよぉ

:【¥1000】今から五秒後に窓からの風で朝凪ちゃんのスカートをめくってパンチラさせます


「え……?」


 コメント欄に現れた色付きのコメント。俗に言うスーパーチャットという、配信者に対してお金を送る機能なのだが、コメントの意味は一体……。

 そんなことを思っていると、数秒後に窓の隙間から強い風が吹いてきて、朝凪さんのスカートをめくった。


「きゃっ!?」


 ――白。


 何とは言わないが、俺の目にはそれが飛び込んでくる。一生の悔いなしとも言えるほど眼福であった。

 朝凪さんは顔を真っ赤にしてスカートを抑え、こちらを上目遣いで見つめてくる。


「み、見ましたか……?」

「見……見……見」

「え、えっ? 私のせいで冴島くんが壊れちゃいました! 大丈夫ですか!?」


 あまりの動揺から問い詰められることはなかったが、恐ろしい事実が発覚する。

 最初はコメント欄の人たちは俺の脳内で想像して作られた架空の存在かと思っていた。だが、先程のコメントは明らかに異常なものだ。


 俺が窓が少し空いていることも、風が五秒後に吹くことも、スカートがめくれることもわかっていなかった。

 スパチャで風が起こすとかもわけわからないが、明らかに俺ではない視点からのコメント。故にこれは……。


「これ……マジの生配信じゃね……?」


 疑いが確信に変わった瞬間であった。

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2024年11月29日 17:23

どうやら俺のラブコメは生配信されているらしい 〜美少女救ったらラブコメ始まったんだが、コメント欄がうるさくてかなわん〜 海夏世もみじ @Fut1

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