第178話

「じゃあね朱朗。」


「……ん。」



いつもなら、彼女をどれだけ困らせて傷つけてやろうと考え、別れることが多かったのに。



今はただ、大切にしたいと思う気持ちが強いばかりだ。



星來の前で他の女の名前を口にして、他の女と腕を組んで、他の女を抱いていた自分。あまりにも愚かだ。



俺は何よりもきっと、星來が他の男に抱かれたことが許せなかったのだろう。星來に嘘をつかせた元凶は、俺でしかないというのに。   


  

星來のスケジュールも分からない。自分からは連絡も取れない。次の約束がないまま別れることが、こんなにも自分を不安にさせるなんて。知らなかった。





そして。またね。とはあえて言わなかった星來。 



正直、朱朗に対する恐怖心など、さっきの授業でどこかへ飛んでしまっていた。



朱朗の執着がすごいのか、はたまたポジティブなメンタルがすごいのか。自分を襲っておきながら、あそこまで踏み込んでくる彼の神経はさすがだ。



あまりにも馬鹿で図々しくはあるが、そんなありのままの朱朗を好きになったのだ。



この先、幼なじみとしての朱朗なら受け入れられるだろう。



ただ恋人として共にするのは、無理だと感じていた星來。自分に朱朗のポジティブさはない。ネガティブの部類なのだ。



講義室から出てくる人混みに紛れ、消えていく朱朗の背中。友達と楽しそうに喋る姿が、まぶしく見えた。

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