第113話

座席にもたれかかる星來の頭が、ふいに揺れる。



窓ガラスに映る彼女の瞳からは、大粒の涙がこぼれ始めた。



「(演技じゃなくても、泣くのなんて簡単)」



14歳で初めて泣かされ、17歳のリカちゃんとの手つなぎデートで泣かされて。朱朗には今まで幾度となく泣かされてきた星來。



もう、ちょっとやそっとのことじゃ泣けないと思っていたのに。




……―――その様子を隣で見ていた一弥。



もちろん、外の朱朗と女の姿も見えていて。それに加え傷つく星來を隣に感じれば、ただ心が痛い。


 

なぜ星來はそれでもあの男が好きだと言えるのか。いい加減、自分を見てほしい。自分は決して星來を傷つけることはないのに。



それと同時に、朱朗への怒りが込み上げてくる一弥。



「(あのクズ、覚えてろ。)」



一弥がそっと、星來の指先に触れて。手を横から握る。



一瞬星來の肩がぴくりと反応するが、一弥を見ることもなく、手の平に彼の温度を感じたまま泣き続けた。



泣き言をいって甘えることもできない星來と。



甘えられることはないと分かっている一弥。



朱朗と女の姿が闇に消えていく頃。二人の沈黙は、車内でさびしくも微温を奏でていく。



どうにもならない恋だってあるのだと、互いの握られた手に刻まれていくのだった。

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