第88話
地方のラジオ収録。
得意なトーク力を見初められ、関西のラジオ番組『クズやあらへん。』でメインパーソナリティを務める朱朗。東京から関西までの移動距離は長い。そして交通費も高い。
そのためその日はまとめて7本の収録で、朱朗は7本目の「みなはんこんばんは~世にも奇妙なクズこと朋政朱朗です!」が終わる頃には焼け酒声になっていた。
「(喉しぬ!)」
そのラジオ番組のプロデューサーが、朱朗に北海道の北見ハッカ飴を一袋渡し言った。
「映画みたよ。『布石崩し』。朱朗くんの演技、ミステリアスで良かったよ〜!」
「ああ、ありがとうございます。」
「背筋が凍るかと思ったよ。ああいう犯人役もいけるんだね。」
「犯人といっても偽犯人役ですけどね。殺されますし。」
朱朗は初の犯人役に抜擢されたのだが、真犯人は別におり、ラストまでは残らずに殺される偽犯人役であった。
しかしながらこのラジオ番組のプロデューサー、数々の映画やドラマの撮影現場でスタッフとして経験を積み、助監督までこなしてきている人物。
そんな数々の俳優女優の演技を目の当たりにしてきた人物に、演技を褒められるというのは7本録りの報酬以上のものだろう。
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