第9話

朱朗はあくまで自然体をよそおい、「まあね。」と言った。



でもすぐに自分の失態に気付いた朱朗は、「あああチガウチガウちょっと待って!」とポカン顔の星來の前で手をふる。



「星來ちゃん、手を出して!」


「え?うん?こう?」



両手を出した星來は、少しだけ緊張した。でも彼女よりもずっと緊張していたのは朱朗の方。


 

「星來ちゃん。手をね、こうして。僕がぎゅっと握ってもキモいなんて思わないでね?!」


「え?努力はしてみる。」


「わあ。星來ちゃんの手、ちっちゃくて白くていい匂いだねえ。かわいいねえ。」


「あ、ごめん朱朗くん。早くも努力が実らなさそう。」


「ああ何を言ってるんだろうキモい僕ったら。」


「ふふふ、朱朗くんてキモかわいい。」



朱朗はドラマで見たプロポーズシーンを真似るため、星來の手を握ってプロポーズしようと思っていた。



しかし、



「失礼しまーす!朱朗君と星來ちゃん出番です!」


「「はーい!」」



スタッフが二人を呼びにきてスタジオに入れば。俳優として、女優としての空気を出す朱朗と星來。



台本は他の共演者の分も含め、ほぼ丸暗記していた。



助監督がカチンコを持つと、監督がメガホンを取る。

 


「シーン12、テイク1、よーい、スタート!」



いくつものカメラに赤いタリーランプが宿る。撮影時はそのランプが撮影開始の合図となるのだ。



それを目視もせずに感じ取った朱朗が、4秒の間を取り、セリフをつむぐ。





「俺たち、大きくなったら結婚しようね!約束だよ!星來ちゃん!」




「はいカットカッッートっ」


 


朱朗は登場人物にはいないはずの星來の名前を叫んでNGとなった。



一方、楽屋でのプロポーズは完全にセリフの練習だと思っていた星來。ただ両手を握られるシーンはなかったため、少しばかり緊張した。



朱朗の真意は分からず仕舞いだが、役所から婚姻届を持ってきた彼は7歳なりにキモかわいかった。

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