僕は異世界であなたの宝物を捜し出す
御國漣一
第1話 叔父のコンサート
今日は、叔父のピアノのコンサートの日。 会場は満席で、黒と紫の装飾が施されている。新しい会場で、檜の匂いと満席の人から香る独特の匂いに心が踊った。
僕は、
「人が多いわ…」母の理沙が人々の喧騒を眺めながら、ぽつりと言った。
「なにせ、TVでも紹介された今注目の新鋭ピアニストだからな。俺も兄として鼻が高いよ」父の正が嬉しそうに笑った。
叔父の
「檜の匂いがするね。まだかなぁ」友達の中で、唯一の女のコ、光がワクワクしながら智紀に話す。
そこに、
「兄さん, 義姉さん、智紀、智紀の友達達…今日は来てくれて有難う」
叔父の乃蒼が智紀たちの席まで来て、挨拶しに来た。
史郎が礼儀正しく、「こんにちは」と叔父・乃蒼に言った。
「あぁ?」叔父に嫌悪感を持っている蓮羽は史郎を窘めた。
「智紀のお父さんとお母さんがいるからね…」いつも蓮羽に強く言われる史郎も今は強気だった。
蓮羽の両親は叔父が精神疾患の事を家で色々蓮羽に吹き込むのだ。智紀は自分も嫌われている気持ちになった。
「俺、ずっと智紀の叔父さんのコンサート楽しみにしてたんだ~!!」
蘭が蓮羽の最悪な雰囲気を変えるように話した。
「乃蒼、がんばれよ~」
父の正が明るく言った。
「叔父さん、がんばって!!」
僕も叔父さんと握手しながら励ました。
会場がざわめく。
コンサートが始まった。舞台に叔父が現われると、観客が沸き、拍手が起こった。
スマホのカメラのフラッシュが瞬いた。
演奏が始まると、皆は黙って聞き惚れた。
演奏は素晴らしいものだった。
蓮羽は、「へぇ…」と驚いて感心した。
智紀は誇らしい気持ちになった。
舞台でピアノを演奏している叔父は美しかった。
でも、苦しみの表情をしていた。
こんなに、叔父のピアノがこんなに美しいのは、宝物を隠しているからだ。
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