第4話 襲撃のゴブリン軍
――どうしてこんなところにまた聖剣が刺さっているんだ!!
際ほどの落とし穴に落ちていた状況だと罠だと言い張ることもできたのだが、こうも堂々と刺さっていては誤魔化すことも難しい。
「えっと、どうかされましたか?」
ミリアが訝しんだ様子で俺のことを見てくる。
――なにかあの聖剣の良い言い訳はないだろうか? ……無理だろうな。
言い訳が出来ないのならむしろ開き直るしか出来なさそうだ。
それにミリアがあの剣を聖剣と気づかない可能性もあるだろう。
大きく深呼吸をすると諦め、再び扉を開く。
もしかしたら見間違いじゃないか、とあり得ない期待を抱きながら――。
――やっぱりあるよな……。
やはり気のせいなんかではなく、しっかり扉の前に聖剣が埋められていた。
まるで誰も引き抜けずに放置されているかのように。
「どうかされましたか?」
中々外に出ない俺を不思議に思ったのか、ミリアが聞いてくる。
「いえ、大したことではありませんよ。それよりも暗くなる前に行きましょうか」
覚悟を決めて外に出ると早々にミリアが気づく。
むしろ気づかなかったら目が見えているのか疑うレベルではあるが。
「あっ、待って下さい。そこに刺さってる剣ってもしかして聖……」
――くっ、さすがに聖女なら気づくか。
「あれは表札です!」
「で、ですが聖……」
「剣型の表札なんです」
「えっと、でも聖……」
「中々レアものだったんですよ?」
「わ、わかりました。初めて見たので勘違いしてしまいました」
無理やりだったかもしれないが、ゴリ押しで信じて貰えたようだった。
――それにしてもどうしてこんな所に聖剣が刺さっていたのだろうか? まさか聖剣に意志があって自分から目立つところに来た、とか?
所有者以外装備できなくて捨てられない効果はあったが、まさか所有者の手元へと戻ってくる……、ってまだ所有者にもなってないだろ!?
自分で自分にツッコミを入れる。
とりあえずあれは表札なのだから、これ以上気にする訳にもいかない。
むしろ見なかったことにしておこう。
「ここから少し歩くからちょっと急ぎましょう」
「はいっ」
何かボロが出る前に村へと急ぐのだった。
◇◇◇◇◇◇
村に着くとなにやら慌ただしい様子を見せていた。
「みんな忙しそうですね」
「いえ、普段はこうじゃないのですけどね」
話しを聞くために近くに居た人を捕まえる。
「何かあったのか?」
「あっ、リックか。ちょうど良かった。ゴブリンだ!」
たまに村の食料を狙ってはぐれゴブリンが現れることがある。
この田舎村では若者は少ないため何度か俺も駆り出されたことはあったが、ゴブリン一匹に対して村人総出で戦って何とか撃退していた。
それで大騒ぎをしているのだろう。
でも、今回に限って言えばここにはミリアがいる。
彼女の力を借りるのは癪だが、戦力になる上に怪我人を回復魔法で治療してくれる。
いつものように死人が出る恐れもないのだ。
「なるほどな。それでいつものようにしたらいいのか?」
「そんなことを言ってる場合か!! 逃げるぞ!」
「待て。いつものはぐれゴブリンだろ?」
「はぐれじゃない! ゴブリンの大軍が押し寄せてるんだ!!」
それを聞いた瞬間に俺は血の気が引くのを感じた。
知能の低いゴブリンが大軍でやってくるはずがない。
つまりそれを統率する何者かが存在する、ということだ。
ゴブリン以上の力を持つ相手……。
ゴブリンリーダーか最悪の場合だとゴブリンキングか……。
勇者がレベル20前後あってようやく倒せるようになるゴブリンキング相手にモブであるこの村人が束になったところで容易に蹂躙されることが目に浮かぶ。
もちろん旅立つ前の聖女ミリアだとゴブリンキングは勝ち目が無い。
つまり俺たちにできることはこの村を捨てて逃げることだけ。
「この地を治める領主様は!?」
「一応早足で使いは出したが、どんなに早くても数日はかかる。それに兵を出してくれるかどうか……」
「ちっ、わかった」
話を聞き終えたあと、俺はミリアに向かって言う。
「話は聞いていましたよね?」
「はい、もちろん私も戦いま……」
「……ダメだ!」
聖女は何も考えずに戦おうとする。
むしろそれが勇者パーティーの一員だった聖女ミリアとしては正しい行動なのだろうが、今ここで犬死にさせるわけにも行かない。
彼女には主人公と共にこの原作をクリアしてもらう必要があるのだ。
そのためには……。
「逃げるぞ」
いつの間にか敬語が外れているが、そんなものを気にしている余裕はない。
一刻も早くここを抜け出す必要があるのだから。
「し、しかし、この村の人たちが……」
「あいつらも今から逃げるところだ。だから俺たちも――」
「で、でも、それだと逃げ遅れる人が出てくるんじゃないですか!?」
ミリアが強い瞳で訴えかけてくる。
確かに俺たちなら走って逃げれば容易に逃げられる。
ゴブリンはそれほど動きが速い相手ではないのだから。
しかし、それが年寄りとかになると話は別である。
この田舎村に住む多くは年寄りである。
若者の多くは出稼ぎに行っており、村に残っているのは少数である。
つまりこの村に住む大多数が命を落とす危険があるのだ。
ミリアとしてはそれが見過ごせないのだろう。
しかし、ミリアをこのまま放置しては一人で勝手にゴブリンの大軍と戦うかもしれない。
そうさせないためには……。
「わかった。ここは俺に任せろ! 奴らの狙いならわかっている。時間稼ぎくらいならできる。だからその間にみんなを逃がしてほしい。これはお前にしか頼めないことだ!」
ミリアの目をじっと見て頼む。
すると彼女は顔を真っ赤にして何度も頷いていた。
そもそもゴブリンが村に襲ってくる理由は食糧不足によるところが大きい。
つまり道に大量の食料を転がしておけば足止めくらいは容易にできるのだ。
――はぁ……、この冬は食糧不足で困りそうだな。
でもどうせ逃げたら食われるのだから同じ事だろう。
――せっかく頑張ってあの家を作ったんだけど、また一から作らないといけないのか……。
これから蹂躙されるであろうことを考えるとため息しか出ない。
そんな俺を見ていたミリアは目を輝かせながら手を握ってくる。
「わ、わかりました。私がみなさんを避難させます! で、ですのでその……、勇者様もお気を付けて……」
「いや、だから俺は勇者じゃ……」
「……言ってみたかっただけです」
ミリアは悪戯がバレた子供のようにちょっと舌を出すと村人……、主に老人に手を差し伸べて逃げ出していく。
「さて、俺も俺のやることをするか」
軽く伸びをして体をほぐすと村の食料が保管してある倉庫へと近づいていく。
◇◆◇◆◇◆
まさか聖剣を持たせることで勇者かどうか調べようとしてることがバレるとは思わなかった。
いや、それくらい簡単に見抜けなくてはあの邪神龍も倒せないか。
とはいえ勇者かどうかはルシフェルにとっても死活問題。
邪神龍を倒すほどの相手ならほぼ間違いなく勇者なのだから。
次は罠だと悟られないように。それこそ軽く手が当たる程度でもいい。
そんな考えから玄関前に聖剣を差してこっそりと影から伺うことにしたのだ。
しかし、それもスルーされてしまう。
あの話し方だと聖剣とわかっている感じだ。
――この剣が聖剣だとわかるのはごく僅かのはず……。聖なる神の使いか、あとは……。
「勇者……か」
――やはりあの男は勇者の可能性が高そうだ。でもそれなら聖剣は必要となるはずなのにどうして手に取らない!? はっ、まさか!?
ルシフェルはだんだんと青ざめていく。
――つまりは聖剣ですらあの男にとっては取るに足らない武器、ということじゃないのか!? 邪神龍を倒せるほどの男だ。十分にありえる話だ。
表札代わりにされている聖剣を見ながらルシフェルは今後の動きを考える。
おそらくは先ほど対面したことで自分の正体はバレている。
しかし、こうしてまだ命があるということは魔王である自分とはまだ敵対していない、と思われているのだろう。
邪神龍を倒せるほどの男ならば、敵意を持たれたなら魔王程度、指一本で倒せるはずだから。
――ならばこちらの陣営に引き込むことができるんじゃないか?
邪神龍はいなくなってしまったが、それ以上の力を持つ者が仲間になるのなら御の字だ。しかし、どうやって勧誘するか……。
しかし、すでにかのお方の側には聖女がうろついている。
いや、聖女のおかげで、かのお方の姿を御拝謁できたのだからそこは感謝してやりたいところだった。
考えがまとまらないまま、こっそりとかのお方の後を尾行……いや、護衛する。
そう思っていた矢先のゴブリン襲撃だった。
魔物は魔族が率いている、と考えられているが実際に率いているのはほんの一部で、大多数が野生の魔物なのだ。
しかし、その区別はおおよそ人にはつかない。
家畜と野生の動物の違いが居る場所でしか判断できないのと同じ事だ。
そして、かのお方の怒り方を見る限り、この襲撃はルシフェルが仕組んだものと思われてそうだった。
実際先ほどから気配を消して倉庫の裏に隠れているのだが、ヒシヒシと鋭い視線を投げかけてきている。
“お前が原因か?”
まるでそう言っているがごとくの威圧感に思わず額から汗が流れる。
こんな所でかのお方の不況を買うわけにはいかない。
――かのお方の手を煩わせるわけにはいかない。このような問題、我が処理してくれよう。それで我がこの件とは無関係であることを証明しよう。
周りにかのお方以外いないことを確認するとすぐさまルシフェルはゴブリンたちの方へと飛んでいく。
そこに居たのはたかが
――この程度のザコのせいで我のかのお方に謀反を疑われることとなったのだぞ。その行い、万死に当たる!
怒りから最大級の魔力を手に込める。
普段なら全力は出さずに初級魔法程度で痛めつけるところが、今回に限って言えば全力だ。
極大にまで膨れ上がった火の玉がそのまま周辺もろとも
「ふぅ……。ここまですれば今回の一件、我が原因でないとわかってもらえただろう」
周りに何もなくなってからようやくルシフェルはホッとため息を吐くのだった。
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