第65話

3限が終わり、私は「よーいドンッ」で秋人をどうにか振りきると、蓮見先輩の部屋へと急いだ。



 私が部屋のドアを叩くと、中から「入れ」と、今だ冷静な先輩の声が聞こえた。



「···先輩、お疲れ様です。。ええと、それで···ご用件は何でしょう??」



 ···靴も脱がず、玄関から白々しく聞く私。


 先輩がヒョコッと顔を出し、私に「おいでおいで」をする。



 部屋に上がると、先輩がポンポンとベッドを叩き、ここに座れと私を促す。


 仕方なく真ん中にある机を避けて、ベッドの方へとゆっくり近づく私。



 蓮見先輩は床に膝立ちをし、私がベッドに座るのをじっと待っている。


 なんか飼い主を待っている犬みたいだ。



 ベッドに腰を下ろすと、蓮見先輩が私を見上げて言った。



「···教授らに、お前の力で孫をどうにか就職させてやって欲しいと言われた···。」


「ええ···それ、前にも違う教授に頼まれてましたよね?」


「ああ···これでもう37人目だ。」



 御曹司なんてこの学校に山ほどいるのに、何で皆蓮見先輩ばっかに頼むのか···



「先輩、顔が利くから大変ですね。」


「···うん」


「でも先輩はいつも皆の言うことに耳を傾けてて偉いですよね。」


「うん、そうなの。」


「私はちゃんと知ってますよ?先輩がとっても頑張り屋さんなこと。」


「うん、ポク、ガンパリ屋しゃんなの。」



 大きな身体の先輩が、前から私の背中に腕を回し、ギュッと下から抱きついてくる。



 ···私は先輩の頭を撫で始めた。



「先輩、頑張り屋さんでいい子ですね。」


「うん、ポクいい子なの。イイコイイコなの。」


「···先輩、今日も髪の毛サラサラでいい匂いしますね。」


「うん、ポク髪の毛しゃらしゃらなの。いい匂いしゅるの。ちゃんリンシャンなの。」



 オウム返ししかせんのかお前。



 先輩が私にしか見せない顔。それがこれ。


 先輩は疲れに疲れがたまると、赤ちゃん返りしてしまうのだ。

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