第63話

「セーンパイっ。何見てんの?」



 ボーっと蓮見先輩が男たちに囲まれている姿を眺めていた私に、心陽君が後ろから覗き込んできた。



「あ、おはよう心陽君。」


「おはようセンパイ。」



 英語のロゴやニコちゃんマークがところどころに描かれている大きなパーカーに、膝にダメージの入った細身のジーンズを履いている心陽君。



「今日もお召し物がざわついてるね。」


「センパイこそ、僕昨日の格好見たよ?めっちゃ可愛いかったし!」


「は、ははっ···そりゃどうも。」



 私が「じゃあね」と教室に入ろうとすると、心陽君が後ろからギュッと腰回りに抱きついてきた。



「ちょっ!!」


「センパイ···僕、昨日センパイにラインしたんだよ?何で未読スルーなの??」



 え、ウソ。

 知らない知らない。



 私は鞄からスマホを取り出し、ライン画面を開くと目を凝らして確認した。



 すると、琉生、秋人、広告、広告、広告の下に、心陽君からのメッセージが入っていることに気がついた。



『朱南ちゃんの今日のカッコかあいいね。』


 凄いどうでもいいメッセージの上に、あまりにも普通すぎて目立ってない。というか他2名のメッセージが悪目立ちしてるせいだ。



 心陽君は大学に入ってからというもの、私への敬語がなくなったのと、2人の時は「朱南ちゃん」と呼ぶようになった。


 高校の時は、女に馴れてる感じが前世のダメンズを彷彿とさせていたが、今となってみれば弟みたいで可愛い。



「あーごめんね心陽君、昨日はちょっと、色々あって···」


「てかセンパイ、昨日神影先輩と皆藤先輩の部屋にいなかった?」


「え?!な、何で知ってるの?!!」



 心陽君が後ろから私の耳元でそっと囁く。



「何してたの、僕のラインにも気づけないような凄いこと?」



 息を吹きかけるように話されて、私はゾクリとした悪寒を背筋に走らせた。



「ち、違うし、」


「ねえどうなの。あいつらと何してたの。」



 あかん。心陽君の息がちょっと荒い気がする。


 何してたのって、私は冷めた目で2人の哀れな姿を静観してたにすぎないよ。


 そんなあなたが興奮するようなことはないとも言い切れないけど、ほぼないよ。

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