第23話

そのファイルは生徒一人一人の簡単な個人情報が載っていて、生徒会室の隣の鍵付き書庫に保管されているものだった。



「先生に書庫の掃除を頼まれてな...。偶然、お前の情報を見つけてしまったんだ。」



 ああ、終わった。


 さよなら、お父さん、お母さん、短い人生でしたがお世話になりました。あなた方のお陰で、私の人生が短いものとなったことをよく覚えておいて下さい。



「.....どうなんだ、一門朱南ではなく、本当は一色朱南、なのか?」



 蓮見先輩が私に一歩一歩近付いて来て、その度にビクビクと自分の身体が強張る。私は蓮見先輩のあまりの重圧感に、なんと涙を流してしまったのだ。



「ご、ごめんなさっ....親に、むりやり入れられて...ごめんなさぃっ」



 いくら私がムエタイをやっていても、一抹の不安がイチモツの不安だったのだから、そりゃあ泣く。蓮見先輩はそもそも見た目からして背が高くガタイがいい。


 この時私は、蓮見先輩にはきっと色々幻滅されたに違いないと思った。"不良を更正させた"なんて噂がある男が、実は女で泣き虫だったのだから。


 でも、実際は....



「.....ち、違うんだ....、その、問い詰めてるわけじゃないんだっ。」



 動きを止めた先輩が、必死に私をなだめようと慌て始めたのだ。



「なんだ、....あ、そうだ、ええと....っ、何が欲しい?!」


「え?」


「....あれか?!タピオカ的なやつか?!」



 蓮見先輩は私(女)をどう扱っていいか分からなかったようで、そのまま扉から出て行ってしまった。


 それから20分後、蓮見先輩の手にはタピオカ的なミルクティーが握られており、沈黙のまま差し出された私は、一言お礼を言ってそれを飲んだ。



 女子をなだめるにはタピオカミルクティー。漫画の中だから流行りに時間差があるのは気にしないことにして、その日から私は蓮見先輩を見る目が変わった。



 下半身の物差しばかりで人を測ってはいけないのだと。

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