第12話 私は踊る そして……
ムツはにやりと笑う。
互いに内心……焦りながら。
どうしよう。とりあえず左手を抑えて距離をとる。
ムツも刀をむけてゆっくと立ち上がっていく。
間合いをとる。ゆっくりと構えて、気迫を演じている。
ムツは脇差で受け止めたと言いながらも、腹部分にダメージが残っている演技を、私も左手を負傷した演技を続ける。
「やるわね……」
使うはずの「崩拳」は使えない。
ほかにも、左手の受けの演技ができない。できるだけ避け演技と左手を使わない打撃と受け、避ける演技で乗り切るしかない。
この演技はよければいい。
ムツは八相に構えた。左右の二段の袈裟斬りこむ。
テンポをつかませるためのよく多用されている斬撃、つまりは長引かせるためにムツはどうつなげるか考えて糸口を見つけようとしている。
わざわざ察しやすい一撃を使い。
「やあっ!」
「たあっ!」
2度の連撃を左右の袈裟斬りを私は避けて、横斬りを転がるように置ける。見づらいけど、体を床に着けてから、足で払うように蹴り込む。
そこから思いっきり、
「やあっ!」
隙をつき、そのまま後ろ蹴り避けれない。一撃をムツは腕で受け止めて、後ろに飛ぶ。
痛みはないように、ムツは演じてくれている。今のところ。
果敢に攻める私に一撃を仕掛けるムツ。蹴り技は間合いは長く刀にも負けてはいない。そう、観客は理解してる。私の攻撃では彼を倒せない。
だからこそ、彼を倒せる必殺の逆転の一撃が必要だと。
よし、そこを意識させて、だからこそ、観客の期待は続いている。
うまくいく、ここは彼の攻撃を腕輪でしのいで崩拳だった、攻撃はできない。よける。
ムツの視線が私の太ももに向いている。なに、こんな時に……違う!
「そこよ!!」
私はそこから、足を跳ね上げて前蹴りをはなつ。予想しづらい攻撃に観客は目が点となる。
単純な蹴り技だが、崩せた。
ムツの捻るように大げさにさけて、後方へと飛びよけた。
よしよし、距離をとらせた。
「必殺・水車!」
などと肩に刀を脇に構えてから、私へと突っ込くるムツ。
よし、ここは見せ場の一つだ。
「私の勝ちよ!」
すれ違いざまに、ムツの攻撃を私は回り込むようにさけてから。
「ここ!」
いつも以上に鋭い太刀筋はすでに真後ろにある。彼の無防備なうなじが見えた。
完璧な視覚からの一撃に対処ができないはず。
かすめるように飛び跳ねて回り込む勢いのままに回転跳び蹴りを仕掛ける。
ダイナミックな技の多い中国・
「な、何!」
私の一撃の威力を避けて交わす力を利用しアスカへと振り替える。
まだ、宙を舞う私にムツも刀を横へと寝かせて横一文字で迎撃。
「えい!!」
タイ捨流、
交差し回転し、また交差する。横の攻撃に観客は声を上げていた。
「え、う、うそっ!!」
「すげー鮮やか。なんだよ! 今の技は!!」
「きゃあっ!!」
そして、私は着地と同時に体勢を崩すように、転がり込んで、舞台の奥ギリギリで止まった。
私はわざとらしく太ももを押さえて、座り込んで、ムツをにらむ。
「くううう………」
よし、繋がった!!
本当に二人とも安堵していた。
後は最後をミスしなければ終われる。
本当に好き勝手できて、こんなに楽しいなんて……舞台をかき回した。
演者は演技をとめて、観客は息を呑み私たちを見ている。
あいつも、こいつも、どうでもいい。私たちの舞台に夢中だ。
慌て果てる監督なんてどうでもいい…これは私たちの舞台なんだから。
「足を斬った。もう動けまい!」
ムツがニヤリと笑い、刀を向けていた。
そう、どうしようもないほどの危機、左腕と右足を斬られてどうしようもないほどの満身創痍。
ムツのダメージは打撃をいくつか負っているのみ……決着はついたようにみえるか。
「ちぇえええええぃぃ!!!」
ムツは気合を入れて、脇構えから一気に切り落とすまるで示現流のような必殺の一撃を仕掛けくる。
私の足は動けない。切られるだけと思うだろう。
二回目の逆転劇を始める。
「やあっ!」
触れれば切れぬ物のない一撃必殺は空をきり、霞をわかつ……徒労に終わり。
「よ、よけたの!!」
「う、うそっ!」
「ど、どこに??」
私はギリギリの一歩をひねりだして 飛び込むように、ムツの懐に入り込んだ。
私とムツは重なり、ムツの体臭が鼻につく。
そして、ムツの体は回るように崩れて、舞台に沈んでいた。
「ぐっ、ぐっああ!!」
私の右手には刀を握り、ムツの体を斬り裂いていたのだ。
ムツの腰に主のない白鞘が残り、私の手には雪の華紋鍔の脇差で斬られた。
銀箔が光り、舞台で輝いている。異形な刀身は一尺二寸と短めながら、薙刀直し《なぎなたなおし》の鯰尾藤四郎写し《なまずおとうしろううつし》
が舞台上で映えて輝いている。
『わああああああ!!!!』
観客が大きく声を上げ、激戦に応えるように声を上げて。
パチパチ!!パチパチ!!パチパチ!! パチパチ!!
何度も大きく拍手が響き、全ての称賛が私へと舞い降りていた。
ダンサーとして、殺陣師として、舞台に立ちさまよいながらも諦めきれずあがき続けていた。
私達への反逆の称賛がずっと続いていく。
ああっ………これだ……この輝いた舞台こそ、私が求めたもの……
知らず知らずのうちに涙がこぼれていた。
舞台の上の殺陣師達と観客が私達をいつまでも眺めていた………
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