パパ活、始めました
景華
第1話 パパ活、始めました
「さ、咲田まいかさんっ!! 俺と付き合ってください!!」
空は暗雲が立ち込め、しとしとと冷たい
肌を刺すようなひんやりとした風が、マフラーに守られていない目元に突き刺さる。寒い。
私は今、下校しようとしたところをクラスメイトに呼び止められ、靴箱の前で告白されている。
だが私はそれどころではない。
だって今日は……私は──。
「ごめんっ!! 私、これからパパ活だからっ!! じゃ、またっ!!」
「は!? え、ちょ、パ──!?」
後ろから何か言っているけれど振り向くことなく傘をさすと、私はその降りしきる雨の中を駆けた。
***
「パパーーーーっ!!」
「パパじゃないってば。ていうか、勝手に入ってこないでっていつも言ってるでしょうに……」
ピンポンを推すこともなく突入したのは、とある一軒家。
4LDK二階建てのごく普通のお宅は、私の家ではない。
今私が後ろから抱き着いている男性のものだ。
「良いじゃん減るもんじゃないしっ」
「減るね。俺のプライバシーが」
そう言って自分の首に絡みついた私の腕をやんわりとほどくパパ。
「だいたい俺には
「えー、パパ活だよ。パパに好かれようと奮闘する活動。略してパパ活」
「何その紛らわしい略し方!? ていうかパパじゃないから」
そう、血縁上はパパではない。
というか、私たちは全く接点のなかった赤の他人だ。
──半年前。
高校三年生の夏休みが始まってすぐ、父と母は別居した。
父は家を出て母ではない女の人の家に。
母も母で恋人を作って、夜も家にいないことが多くなった。
家に帰ればひとりぼっち。
ううん、こうなる前から父と母の言い争いは絶えず、私の家に心休まる場所はなかった。
そしてあの日──18歳の誕生日に、私の心は限界を迎えた。
誰でも良いから傍にいてほしくて、一人になりたくなくて、私は家を飛び出し、パパ活というものをしようと駅前に繰り出した。
立っていれば誰か声をかけるだろう。
かからなければSNSででも呼びかけてみよう。
そう思っていたところでさらさらとした今日のような雨が降ってきて、それと同時に「おーい」とふんわりとした声がかけられた。
顔を上げればすぐそこに、眉を顰めて私を見下ろす、スーツ姿の男性が傘を差しだして立っていた。
黒い髪にすらりとした長身の、若い男。
『カッコいいパパだね』
そう言って笑った私に、その男はこつんと私にゲンコツを落とした。
『誰がパパだ。それより、風邪ひくぞ。傘貸してあげるから帰りな。女の子一人でこんなところで……それこそ変なパパがやってくるだろ?』
『いいの。今、家帰りたくないし。誰かと一緒にいたいから、変なパパでもいい』
嘘だ。
本当はとても怖かった。
だけど私の心は、それ以上に悲鳴を上げていた。
それから男は『はぁー……』と長いため息をついてから言った。
『なら、パパじゃないけど、とりあえずうちに来る? すぐそこだから。昨日の残りのカレーならあるし、食べてけば?』
『え……けんぜ──』
『パパ活じゃないからね?』
その時の男が、今私の目の前で大きなため息をついている──パパだ。
「ったく、毎日毎日、飽きないね?」
「飽きるわけないでしょ? このパパ活を生きがいにしてるんだから」
「妙なもの生きがいにしないでくれる!?」
毎日パパが仕事から帰ってくる夕方6時からが、私のパパ活タイム。
それまでの時間を学校の図書室で過ごし、時間が来たらパパの家へダッシュする。
「さ、パパ」
「何?」
「ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た──」
「パパ活しようとしないっ!!」
ちぇ……。
こんな毎日に、私は心救われている。
できればずっと、こんな日が続けばいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます