第2話 決別
V.B1500年、レベリオは26歳になっていた。商人である父親のウダイから仕事を貰うようになってから13年、彼は自他ともに認める商才を発揮していた。大陸西側のカヤ王国での取引をほぼ一任されており、右肩上がりの利益成長を実現している。そんなレベリオが突如ウダイに辞職する旨を告げた。
「辞めるのは構わないが、なぜだ?」
「陸路での商売は父さんには敵わないでしょうから、これからは海路での商売をしようと思いまして。」
「そう通り一遍の回答をするなよ。本当は別の目的があるのだろう?」ウダイは探るような目でレベリオを見た。一瞬の間を置き、レベリオは美しい青い瞳をウダイに向けて言った。
「では、恥を承知でお伝えしますが、祖父を殺した悪魔に会うためです。」
ウダイはじっとレベリオの事を見た。レベリオがこの噂を本気で信じているのか確かめるためである。レベリオの祖父ダリルが亡くなった後、カヤ王国内では“アルカ大陸には悪魔がいる”という噂が立っていた。これはアルカ大陸から生還したダリルの部下マッテオがそう伝えていたからである。未知の世界であるアルカ大陸は今までも様々な噂を立てられる場所であった。その上に実際に渡航した人間が奇想天外なことを言い出したために皆が面白がった。中にはマッテオの話を元に本を出版する者もいた。
だが、噂は噂でしかなく、現実の生活を変える力は持たない。ウダイも義理の父であるダリルが渦中の人物であったために何度かこの噂の真実を聞かれることがあり、嫌気が差していたが、現実を生きるための生活自体は大きく変わらなかった。また、そのような噂で自分の生活を変えようという意志もなかった。そんな中息子が荒唐無稽なことを言い出したのである。俺の息子はバカではない、それは今までの仕事からも容易に読み取れる。だが、なぜこんな噂を信じているのか?何か考えがあるのか?ウダイは商人として様々な人間と関わってきた。言葉だけは立派でも実を伴わないことはざらにある。そんな中で関わっても良い相手かどうかは目を見ればある程度分かる。
どうやら本気らしい。レベリオの目はウダイにそう思わせた。
「まさか、お前がこんな噂を本気で信じるとはな。」ウダイは溜息交じりにそう言った。
「あなたにとってはどうでもいいことでしょうね。」レベリオは少し肩に力が入りながら言葉を続けた。
「アルタ人のあなたがテオフィロス人の母さんに近づいたのは、母さんの家系が持っていた交易圏に魅力を感じたからだ。そんなあなたにとっては母さんが失踪したことも、祖父が死んだ原因が何だったのか何ていうのもどうでもよいことなのでしょう。」
「噂を信じることと家族に興味があるかどうかは全く別の話だな。」
「そうやって真正面から私の言葉に反対しないのが家族を顧みていない何よりの証拠でしょう。本当に母さんのことを思っているのなら、私が言ったことを即座に否定できるはずです」
「ここで家族に興味があることを証明をしなければならない理由が分からんな。貴様が噂の悪魔とやらが本当にいるか確かめたいのなら勝手にすればいい。」
「ああ、そうするよ!」
レベリオは父親に真意を伝えたことを少し後悔しながら、ウダイの自室を出た。
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